「友だちが欲しかっただけ」ナショナル・シアター・ライブ「フランケンシュタイン」 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5友だちが欲しかっただけ

2022年1月3日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

知的

ぎっしりの客席、観客のざわめき、上演中の笑い、笑顔の拍手を見て聞いて切なくなった。劇場がこんな風になるまでどれだけまだ時間がかかるんだろう。
ーーーーーーーーーーーーーー
Cumberbatch博士版を見た。彼の「博士」はより狂っていて自信と知識と野心に取り憑かれていた。家族含めて周りの人達を巻き込み疎まれ愛を求めながら愛そのものから否定されてしまう。自分が造った怪物と同じ、いやそれ以上に孤独の世界に陥ってしまう。それがとても強く伝わってきた博士Cumberbatch、よかった。ジョニー・リー・ミラーの怪物は目が大きいこともあって愛すべき存在のように見えた。一方彼の博士役はインパクトが弱かった。

初めて水や草を知った時の清らかな驚きの場面で流れる音楽が最後にも流れ美しかった。赤ちゃんの手、目、口を感じた。(2022.01.25.)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
TVドラマ「シャーロック」が前年に始まり勢いのある34歳のCumberbatchの舞台。シンプルで抽象的な舞台美術、エッジの効いた照明とテンポのいい舞台転換、回り舞台にセリ、橋にも野原にも道にもなる細い花道が円形の舞台をクロスしている。Cumberbatchが怪物役のを見た。冒頭、生まれつつある、或いは怪我から蘇生する人のような怪物の動きが暗黒舞踏のようで彼の身体能力に目を見張った。小鳥の囀りに心を震わせ雨が降って水を知り草を触り食べ雪に驚く。その怪物は無垢で清らかだった。盲目ゆえ彼の醜い姿を見ないで済む教養ある老人からたくさんのことを学ぶ。音楽を知りミルトンの『失楽園』を読み、老人の息子夫婦のために内緒で手のかかる仕事をして(直接にではないが)感謝される喜びを味わうまでになる。でも幸せはそこまで。その後、彼の姿を見た息子夫妻や人々から浴びせかけられたのは、人間の恐怖と憎しみに満ちた罵詈雑言だけ。自分を造ったフランケンシュタイン博士を追い求める怪物の思いには愛と憎しみが混ざり合い、まるで恋人に焦がれているようだった。そこまで観客に思わせるほどの複雑な感情をCumberbatchは素晴らしく演じていた。

talisman