「映画は語りかける」ジャージー・ボーイズ cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
映画は語りかける
おもむろに、登場人物がこちらを向き、語りかける。ああ、こういうたぐいの映画か、懐かしいな、と思った。ナレーションやモノローグがわりに、主人公が時折こちらに向き直り語りかける、という手法。ときに斬新であるけれど、興ざめにもなる。今回は、これがとても成功していると感じた。その理由は何だろう、と観終えてからここ数日、つらつらと考えている。
音楽を武器に、世界へ羽ばたこうとした若者たちの栄光と挫折。決して目新しい素材ではないし、殊更に波乱万丈な描き方もしていない。二時間超の長丁場を、一人の役者が若さと老いを演じきる。いつの間にかお腹が出ていたり、髪が薄くなっていたり、老眼鏡をかけていたり…。けれどもむしろ、歳を重ねても中身は変わらず、いつまでも悩める・夢を見続けるちいさき存在である、という印象が強かった。
そんななだらかな物語に、時折ドラチックなセリフが散りばめられる。彼らの言葉は青くさいほどまっすぐで、時にしびれるほどカッコいい。そして光るのは、クリストファー・ウォーケンの存在感。エンドロールのダンスシーンまでにこりともせず、渋さを貫いていた。
さて、改めてスクリーンから語りかけることについて。彼らは、観客である私たちに語りかけているのだろうか。少なくとも、本作では異なるように思う。彼らの眼差しは、もっと遠くにある。映写室から射す光の向こう…そこには、かつての仲間たち、そして自分自身がいるのではないか。
映画を観るというのは、実はとても孤独な行動だ。ひとつの場所に集っていても、人々は向き合い視線を交わすことなく、ただ一方を向いている。同じ時に笑い、泣くことはあるけれど、その中身までは分からないし、むしろ周りとの「ずれ」に違和感を感じる方が多いかもしれない。けれどもそんな違和感や孤独は、生活の中でも日々感じることであり、近しいひとの間でさえも・近しい間柄だからこそ、感じるようにも思う。だからこそ、繋がり、すれ違い、再び集う彼らに、不思議な親近感を抱き、引き込まれずにいられない。そんな彼らの語りかけは、絶妙な距離感で、観る者の心に沁みていく。
人生は、振り返りと気づき、そして再発見の連続だ。紆余曲折を辿った彼らと時間を共有できたことに、しみじみと感謝したくなった。今もなお、身体の中でフォーシーズンズのハーモニーが鳴り響き、気がつくと彼らのメロディーを口ずさんでいる。ほろ苦い幸せは、どこまでも色褪せない。