「久々に階層がある映画でした」グリーン・インフェルノ たますだれさんの映画レビュー(感想・評価)
久々に階層がある映画でした
いい映画のパターンはいくつかありますが、本作は「表層ではエンタメ、深層で別のテーマがある」タイプの映画です。
分かり易い順に記載すると
①食人族によるグロ、そこからの脱出サスペンス
②意識高い系ざまぁみろ
③未知の価値観への偏見
となると思います。
①と②については言わずもがなでしょう。たいていの方の感想がそうであると思います。
しかしながら、それだと実は作中の意識高い系団体と同じレベルの解釈になってしまうと思います。
どういうことかと申しますと、結論を先に述べるならば「食人族は食人のために殺人を犯していない」と思われるということです。
私がこれに気付いたのは、恥ずかしながら最終局面。ダニエルとジャスティンに対する処遇です。
事細かに説明するのは野暮というものなので、おおざっぱに言えば基本的に序盤に全て列挙されています。
「陰核割礼」「蟻攻め」
食人族はジャスティン一行を部族の仲間として迎え入れる為に諸々の行動を行っただけなんですね。
そもそも彼らがジャスティン一行を捕獲してから、素面で殺害したのは最初の一人のみです。
彼は黄熱病を患ったという明確な描写と丁寧な前振りがあり、唯一の殺人にも何らかの意味があると容易に推察できます。
黄熱病を患った人間はああやって儀式的に食べるんでしょう。
一旦彼らになった気持ちで想像してみるといいと思います。
彼ら自身もジャスティン達の価値観を全く理解しようともしないので、単純に価値観の相違による勘違い・すれ違いでこんな怖いことが起こってるように見えるだけ、という身もふたもない結論になると思います。価値観版アンジャッシュか。
木にぶっ刺された遺体を、「威嚇とか縄張り表示のためのものでしょ!」とか
「黄疸患者食べるとかうつるだろ、だからおかしい!」とか
それは「やつらは食人族!」という先入観と固定観念、そして相手の価値観を推し量ろうともしない傲慢さが見せる幻影です。これは言い切れます。
部族の行動の明確な理由はわかりません。上記の解釈があっているかもわかりません。だって価値観を明示されていない部族なのですから。
しかしながら、「野蛮な食人族に食い殺されるところを逃げる映画」という視点は、作中の意識高い系ゴミクズ集団と全く同じ傲慢さであると言わざるを得なく、実際そういう気付きを期待して作られた映画なのだろうな、とようやく理解できました。
とはいえ、現実世界はどうなったものかわからないので、過度な友愛は控えつつも偏見をできるだけ持たずに生きていこうと思った次第でございます。。。。