「ワハハと笑うコメディではなく」グランド・ブダペスト・ホテル ハルクマールさんの映画レビュー(感想・評価)
ワハハと笑うコメディではなく
フフ、フフフフ…とお上品に笑う感じの全編オシャンな空気漂うコメディ風味ミステリー映画。 ポップコーンにコカ・コーラではなく、高級なチーズにワインなど片手に観る感じなのかな。
映画はある作家の回顧録の形で進む。作家は若い頃によく滞在した、かつての高級ホテル、グランド・ブタペストホテルでの滞在中に出会ったホテルオーナーのムスタファ氏に、ホテルを購入したいきさつを聞くことになる。ホテルのレストランで夕飯をともにしながら、ムスタファ氏がかつてロビーボーイとして働き始めたころの話から聞き始める。
ここからは、ゼロことムスタファ氏と、ゼロが師事したコンシェルジュのグスタフHとのエピソードが回顧録の中の回顧録として始まる。グスタフ目当てに宿泊しに来る常連の女性客の一人、マダムDの不可解な死とその遺産相続のやり取りをきっかけに、グスタフのホテルマンとしての日常が大きく変わっていく。
グスタフの流転の人生…のはずなんだけど、どこか飄々とあらゆる環境を受け入れて周囲の人間の好意を受けていくグスタフと、そのグスタフと固い師弟の絆で結ばれたゼロとの冒険を、殺人やら何やらもう結構なことをやっているはずなのに軽やかに淡々と描いていく。
絵面がいちいちアーティスティックなので、多少汚いところの場面でもなんだかオシャレに見えてしまうし、どんな格好をしていてもグスタフはひたすら伊達オトコ。ゼロのとぼけた感じも手伝って、コメディとしても面白い、けどガハハと笑う映画ではない感じね。
それから、一見無駄な超豪華キャストも必見。え、ジュード・ロウこんだけ?あれビル・マーレイだよな?ジェフ・ゴールドブラムとエイドリアン・ブロディとウィレム・デフォーは、三人ともいつもの役どころでまったくの平常運転やな!などなど、キャスティングもいかにも曲者だらけな感じ。それぞれしっかりハマり役。
なんか、大作観たなー!とか、これは感動巨編やなー、的な映画の合間に、美術館でさーっと美術品を眺めるがごとく楽しみたい、目の保養になる映画。