「ラストの衝撃が凄い」悪童日記 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
ラストの衝撃が凄い
あらゆるシーンに衝撃をうけた。
戦争というものは、子供が子供であることから乖離させてしまい、心を家族から分離させてしまうものなのだろうか。
あんなに慕っていた父母を、他人を見るような目で。
父母にとっては確かに「魔女」に魔法でもかけられたかのように、我が子が他人のように思えただろう。
親子の再会の場面、一般の人が想像するのは温かい抱擁ではないだろうか。
双子の預け先の、祖母による冷たい仕打ち。残酷な虐待はなかったが、双子らは自ら様々な試練を課し、苦痛に耐えることで強くなろうとする。
削るような行為を繰り返し、せっかく純粋だった心を自ら穢していく様子が胸に痛い。
彼らの「正義」の定義は、シンプルで残酷だ。
盗みを働いたら女性であろうと容赦なく殴るし、優しくしてくれたユダヤ人を密告した女性にはひどい制裁を加える。
しかし、疎開中にそういった様々な人から学び取った善悪の指標は、父母には適用されなくてもいいはずなのに。疎開前は愛情たっぷりで中睦まじかった親子なのに、無邪気な愛情を失ってしまった様子が、頭に疑問を、胸にしこりを残した。
父母と再会する時期が過酷すぎたということだろうか(おそらく1年ほどしか経っていない気がするが)。
確かに戦時中子供のそばにいなかったこと、それが罪とは言えるかもしれない。
更に加えれば、母親は結果的に祖母のいう通り「牝豚」と呼ばれる行為をしていたわけだ。
祖母の家は自立して勝ち取った双子の砦であり、そこに見ず知らずの男性とその果実をもって現れた母親は、彼らにとって異物でしかなかったのかもしれない。
「最後の訓練」。地雷原に追いやった父親の背中を踏みつける息子。
フィクションだから、というだけではやりきれない展開。
双子の世界には「何も期待するな」という標榜が掲げられ、二人で勝ち取ってきた世界しか価値あるものはない。
冒頭で母親が話していた「双子は目立つ」という台詞が、彼らの頭によぎったのだろうか。
それとも彼らにとって戦争はまだ終わらないものなか。
二人はどこへ行き着くのだろう…。
不穏な胸騒ぎだけを残して、映画は終わる。
この映画、最初は敵対していた祖母とまるで戦友のような情愛を交わしていたのが救いだった。
双子は素人だが、二人の出自の貧しさが造り出す剣呑とした雰囲気が、演技力の拙さを補ってあまりまると思う。
何か起こる度に不穏な響きを醸し出す銅鑼の音のような演出も良い。