「原初的な映画体験」何食わぬ顔(long version) あきひろさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0原初的な映画体験

2022年2月27日
iPhoneアプリから投稿

これまで、ドライブ・マイ・カー→偶然と想像→不気味なものの肌に触れる→天国はまだ遠い の順に鑑賞し、濱口作品5本目。

まず、学生作品とは思えない描写、構成力、そして8mmでこれだけの作品を撮り上げた腕力に驚く。
プロの作品と比べてしまうと技術的に未熟な部分が散見されるものの、はっとするような魅力的なショットが随所にちりばめられ、最初にこの作品を観ていたら、この監督は映像を先鋭化させる方向に向かうのではないかと想像したかもしれない。
しかし、人物(と言葉)にフォーカスする方向に向かったと思うので、そうか、そっちに行ったんだというのが個人的な感想。

喪服でサッカーをするショット(ワイシャツの白が綺麗)、女の子が空港の階段を駆け上がるショット、夜の競馬場の光と影、レースの躍動、最後に主人公が飛び出すように走るショットなどが印象に残った。

さらに、劇中劇で女の子が辞書を読み上げるシーンにおける、言葉の洪水と波紋のように広がる意味、8mmの限界に挑戦するような長回しに、映画的な感動を覚えた(ちょっと長いけれど)。

原初的な映画体験ができる作品ではないかと思う。

あとは、学生映画サークル特有のだるさがよく出ているなとか、DAYライトとタングステンというワードを久しぶりに聞いたなとか、主人公の煮え切らない態度(リアルでも劇中劇でも)があるあるだなとか、監督と同年代の人間としては懐かしい感じだった。

あきひろ