「人の本質は残虐なのか慈悲深いのか」寄生獣 完結編 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
人の本質は残虐なのか慈悲深いのか
原作未読。
前編は最後まで興味深く観られたものの、
派手なVFXが披露されるシーンはほとんど無いし、
作品のテーマもイマイチ掴み切れず終いで、
あくまで後編へのお膳立て、という印象だった。
しかし……いやはや、やっぱ後編からがこの映画の本気だったんすね。
ストーリー展開もテーマもVFXアクションも前編とは段違い。
徹頭徹尾、面白かった!
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終盤の“後藤”とのバトルは、ハリウッド映画のアクション
演出の密度と比べるとやはり満足のいくものではないが
(森林での格闘は最強生物の攻撃にしては寂しいし、
“後藤”vs特殊部隊の戦いも見せて欲しかった)、
さすがは山崎貴監督作品というべきか、人対人という
スケールでのアクションにおいては邦画最高峰のVFX。
テーマを語る上でも十分な分量だし、廃棄物処理場での
画作りはどこを切り取ってもクライマックスに相応しい迫力だ。
顔をしかめるほど不気味なクリーチャーデザインもグッド!
『遊星からの物体X』やら『DEAD SPACE』やらが
大好きな自分はこういうウネウネモゾモゾ造形の
クリーチャーにヒジョーに弱いんである(悪趣味って言うな)。
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唸ったのはテーマ面。
「私達をいじめるな」という田宮の言葉、そして
真の『寄生獣』が誰かを問うあの恐ろしい演説によって、
『人類を脅かす恐怖との対決』という当初の図式は崩れる。
脅威だと思っていた存在が、実は脅威にさらされる側だったのだ。
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繁殖を妨げる生物を敵と見なし排除する――
それは何も人間のみに限った行為ではないが、
我々人間は他種を排除する技に異常なほど長けている。
度を越えた殺戮行為を少なからず繰り返してきている。
一方で、ミギーの言葉にもあった通り、別種のいきものの
痛みを理解し憐れみを寄せる生物というのが地球上にも
そうそう多くはない事も事実ではと思う。
何なのだろう、この不可解な生物は?
種を繁栄させる為に数多のいきものを滅ぼしてきたくせ、
か弱いいきものには愛情や憐れみを寄せるというこの矛盾。
人の本質とは残虐なものなのか? 慈悲深いものなのか?
あるいはどちらに分ける事もできないのか?
一度は憐れみを掛けて“後藤” を見逃そうとした主人公が、
思い直して彼を『火葬』する場面が忘れ難い。
「ごめんな、それでも生きていたいんだ」
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自分の大事なものを守る為、それに害為す者を殺すのは、
太古の昔から生物に組み込まれた覆し難い本能だと思う。
残念だが、人の数がどこまで膨れ上がろうとそれはきっと変わらない。
だが、人と他生物が共存できる世界で無ければ、いずれは
人が絶滅の危機に晒されるということも理解できる。
それだけではない。
田宮は赤ん坊に愛情を抱くようになった。
不思議だが、ヒトだけでなく、イルカやサルなども同種に
対して抱くような愛情や憐れみを他種に抱く事があるらしい。
その感情は生物の進化において必然なのだろうか?
ならば、自分達を生かす事も、他生物を生かす事も、
どちらも生物としての要求である可能性は無いのか?
生態系のバランスが崩れ切るか寄生生物が誕生してパクパク
されないうちに、共存の道が見つかればいいのだけど。
エンタメとしてもテーマ面でも見事な出来でした。
<2015.04.25鑑賞>
>人の本質とは残虐なものなのか? 慈悲深いものなのか?
あるいはどちらに分ける事もできないのか?
全く同感ですね。
15年前に、亡くなった戦争体験者の父がよく言ってました。
戦場では人間の莫大な残虐さと少しの慈悲深さが共存している
そして、一番可哀そうなのは老人、子供、女性等のか弱い者だ
と・・・