「いかにも邦画らしい残念さにあふれている」寄生獣 完結編 カルストさんの映画レビュー(感想・評価)
いかにも邦画らしい残念さにあふれている
原作付きの場合、原作を読んだことがあると辛口の評価になりがちだ。私も原作をリアルタイムで読んだ世代だが、その点を差し引いて単純に映画として評価しても首をかしげる描写が多かった。
まず、染谷将太と橋本愛のラブシーンは必要だったか?ラブシーンを入れるにしても、あそこまで長々と描写する必要はなかったのではないか。
その後の、後藤と新一の戦闘シーンだが、鉄筋に付いていたのが放射性物質という設定にする必要はなかったし、やるべきではなかったと思う。理由は二つ。一つは、放射性物質が体内に入ったからといって細胞レベルで瞬時にその危険性を感知することはできないということ。原作のようにダイオキシン類であれば(原作でミギーが言っているとおり)猛毒なので、体内に入った時点で各細胞が危険を感知することはあるだろう。しかし、放射性物質の場合、細胞への影響が出てくるのはある程度時間が経ってからだ。二つ目に、劇中の描写から判断すればゴミ処理場に搬入されていたのは震災がれきである可能性が高い。これは、震災がれきに対する偏見を助長する、誤った描写である。人体に即座に影響を与えるような高レベル放射性廃棄物が、普通のゴミ処理場に持ち込まれることはないはずである。監督は、そんなに震災の被災地域に偏見があるのだろうか。
ミギーが長い眠りに入るシーンにしても、原作通りの理由で良かったのではないか。また、このシーンを原作通り夢の中(脳内での直接コンタクト)とした方が、ラストシーンも理解しやすかったはずだ。
逆に、描写を省きすぎている点も目に付く。例えば、SATによる市役所襲撃シーン。警察が市役所に目を付けた理由が描かれていない。例えば倉森による情報提供を示すシーンがあれば納得できるが、そのようなシーンはなかったのは手落ちではないか。
ラストの新一が里美を助けるシーンもおかしい。原作では、新一とミギーは何度か脳内で直接コンタクトしているので、最終回における会話も理解しやすいが、映画ではこれまでにそういうシーンを全く描写していないので、唐突すぎるし意味不明である。原作を読んだことのある人間でなければ理解できないのではないか。
そして一番の不満は、後藤の描写である。1体の人間に5匹のパラサイトを寄生させた最強の戦闘生物である割りには、その恐ろしさが十分に描写し切れていなかった。SATとの戦闘にしても、もっときちんと描くべきだったのではないか。それこそ、ラブシーンのしゃくを削ってでも。
良かった点もある。深津絵里の演技は素晴らしかったし、他のキャストの演技も良かった。
それだけに、監督の妙な偏見や取って付けたようなシーンが残念である。アクションも中途半端、取って付けたように情緒的なシーンが入ったりと、邦画の残念な部分が目立ってしまった映画だと思う。