寄生獣 完結編 : インタビュー
染谷将太&橋本愛からのラブレター 「寄生獣」山崎貴監督&ミギーへ捧ぐ
岩明均氏の伝説的な漫画「寄生獣」を山崎貴監督のメガホン、染谷将太主演により2部作で実写映画化されると発表されたのは、2013年11月20日。あれから約1年半を経て、後編にあたる「寄生獣 完結編」が公開されようとしている。主人公の泉新一役を文字通り心血注いで演じきった染谷と、ヒロインの村野里美に息吹を注ぎ込んだ橋本愛に話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/堀弥生)
本サイトでは前編「寄生獣」公開時、新世代の実力派2人から別々に話を聞いている。その際、橋本は染谷を密かに“先生”と呼んでいたことを明かし、「一緒にいると、役割をまっとうすることの具体性みたいなものが学べましたし、いちスタッフのように現場に紛れ込んでいる感じが尊敬できる」と語っていたことが、筆者に強いインパクトを残していた。映画俳優として生きる道を選んだ2人はいま、何を考え、どう歩みを進めようとしているのか。年長の染谷が、リラックスした眼差(まなざ)しを注ぎながら、橋本と出会った頃に触れながら話し始めた。
「初めて会ったのは僕が高校2年生くらいの頃だから、愛ちゃんが14歳くらいだったかな。なんか、大人になったよなあって思ってしまいますね。5カ月間の撮影のなかで、愛ちゃんは期間的にちょっと来てはまた去ってというのを繰り返していたんですが、里美って大変なシーンにしか出てこないんですよね。それも、ひとりの人を支える役っていうのは、相当大変で体力を使う役だったはず。そんななか、現場に来ては一生懸命もがいて帰っていく愛ちゃんの姿を見ていると、ずっと現場にいる自分としては不思議といいエネルギーをもらっているなという感覚がありました」。
染谷の口からつむぎ出される言葉を、うつむきながらもじっと聞き入っていた橋本は、「寄生獣」という作品から学び得たことがいかに大きかったかを説く。「自分のことは関係なく、すごく面白い映画を見たっていう幸福感、満足感が何よりも大きいです。そういう風に思える作品に関われて嬉しいというのはもちろんあるんですが、いい時間が過ごせた、いい映画を見られたというすごくシンプルな思いが先に立ちます。こういう単純な思いでいていいんだなと。あとは、こうして愛情を持って取材を受けさせて頂けること、お客様に作品をお届けできることが嬉しい。そういうプラスの感情でいられるというのは幸せなことですよね」。
橋本がいつも以上に穏やかな表情を浮かべているのは、先生と慕う染谷が横にいることも起因しているのだろう。里美という役どころに課せられた役割についても、「前編では寄生されていない唯一の人間として、新一くんの純粋な人間としての生活を思わせる描写に重きを置いていましたけど、完結編ではSFの要素も増えていく。そんななかで里美の存在、役割も大きくなっていきましたよね」と説明する。しかし、完成した本編で見た自らの姿には「映っている里美が最後まで純な顔をしていたんです。監督が純なところを切り取ってくれたんだなあと、すごく新鮮な気持ちになりました」と驚きを禁じえなかった。
染谷もまた、4度目のタッグとなった山崎監督の今までとは異なる姿を垣間見ていた。それは、「寄生獣」という作品がこれまでの作風と異なるものであり、主演としての立ち位置による要求の変化なども当然ながらあった。そのうえで、「完成した完結編を見ると『あ、監督はこういうところに行きたかったんだ!』というところに行き着く。当たり前のことなんですけど、そこに焦点を置くと、答え合わせができたんです。決して説教臭くなく、良い意味で曖昧な、映画としての余白がある印象を最後に感じたので、合致しましたね」と語る。
さらに、今作を語るうえで、新一の右腕に寄生したパラサイトのミギーについて触れずに進めるわけにはいかない。阿部サダヲがCGとして描かれるミギーの声を務めたほか、全身にモーションキャプチャースーツ、頭部にヘッドマウントカメラを装着するパフォーマンスキャプチャー撮影に臨み、見る者を否応なしに物語の中に引き込む役割を果たした。現場では阿部の声がスピーカーから流れるなか、コンピューターにミギーの動きを取り込むため、染谷は本番時、右手にマーカーをつけて撮影に挑んだ。
山崎監督をはじめとする製作スタッフは、完成した映像を見たときに「まるで最初からそこにミギーがいたかのようで驚がくした。目線の動かし方も含め『こいつ、ここまで読んでやっていたのか?』」と染谷の俳優としてのポテンシャルの高さに舌を巻いたと筆者に話している。それもこれも、「ミギーが見えました」と言い放てるほど染谷がミギーと一体化したからこそ成立した演技といえるが、染谷がいま、ミギーに対して伝えたいことがあるとすれば、どんなことだろう。
「阿部さんに対しても、ミギーに対してもですが、『これで良かったですか?』という感じでしょうか。現場では、スタッフの皆さん含め、誰もがミギーをいち出演者としてとらえていたんですよ。たとえば、参考用にミギーの造形がカメラに入るとき、『ご本人入ります』とか『ミギーさん入ります』といった言葉が自然と出てくる。本当に、いち出演者として現場にいる感覚が強かったので。みんながミギーに対して向いていたベクトルがどういう形になったのか、それは完結編が完成して初めて全部がつながって確認することができたわけです。だから、『ミギーさん、これで良かったですか? 文句ないですか?』って問いかけてみたいですね」。
また、山崎監督は本サイトのインタビューなどで染谷を「珍獣」と呼び、作品をしっかり背負える俳優になってもらいたいと願い続けてきた。橋本についても「彼女は実に面白い。僕のオーダーとズレがある。典型的な要求をしても、少しズレてくる。思いもよらないものが出てくるんですから、いろんな監督やプロデューサーが仕事をしたがるのが理解できる」とエールとも解釈できるコメントを残している。逆に、2人から山崎監督に対して伝えたいメッセージがあるか聞いてみた。
染谷「僕からすると、監督は計り知れません。そうとしか言いようがないです。映画を作るときにある『ここはこういう風にして』っていう定説みたいなものを地味にずらしてこられるのですが、それを意図的にしようとしている姿を現場で幾度となく見たんですよ。僕は僕でそれを見越してやっているのですが、監督はさらに完成したときのバランスすら見えているようで……。そこが計り知れないんですよね、脳の中が」
橋本「私は、監督の性格悪いところがすごく好きです(笑)」
染谷「良い人なだけじゃダメなんだよ! と言っているしね」
橋本「そう言ってほしいんじゃないかなあと思って(笑)」
山崎監督への全幅の信頼がにじみ出るメッセージだが、それもこれも5カ月間という撮影期間で直面した苦楽をともにしてきたからこそ。エポックメイキングな今作を経て、2人は今後の“俳優道”をどのように見据えているのだろうか。
染谷「常々思っていることですが、維持することって一番難しいですよね。ただ、僕は維持しようとは思っていないんですよ。面白いことさえできればいい。とはいえ、何らかの形で歩み続けたいとは思っています。これまで何かを期待したことってなかったんですよ。だから、今年も期待せずにいきたいな」
橋本「(『寄生獣』に携わったことで)一番難しいことではあるんですが、面白いだけで十分なんだなと感じました。あと、女性として考えると……、男性って老いていけばいくほどおいしくなると思うんですが、女性はそこにまた別の種類の努力がいると思うんです。せっかく役者という死ぬまでできる職業につけたのだから、年齢とか老いとかに抗うことなく、面白く利用していきたいなと思うんです」
まだ19歳の橋本が“老い”について話し始めたため、染谷と筆者は爆笑。顔を真っ赤にして照れる橋本は、「今はフレッシュ全開で! みずみずしい、ピュアな姿で頑張りたいです」と言い放つと、自らも笑い転げていた。屈託のない2人の姿に、日本映画界の明るい未来を垣間見た。