「うーん、微妙・・・。」アクト・オブ・キリング bashibaさんの映画レビュー(感想・評価)
うーん、微妙・・・。
個人的には、今年前半の最大の期待作でした。
しかし、いざ、観終わってみると、なんだか、肩透かしを喰らった感じがします。共産主義者を殲滅させるという名目で大量のインドネシア人を殺し続けた集団の「幹部」とも云える人物(今では白髪の老人)が主人公なのですが、その主人公に殺害の様子を再現させる、というのが、話の骨子なのです。しかし、しかし・・・、その殺害の再現が、なんとも微妙なのです。非常に稚拙なのです。まるで、中学校の文化祭の催事のようで、主人公である殺人の実行者の話にも、私は衝撃を受けませんでした。やはり、このような記録映画を作る際には、当時の実録のフィルムを所々に挿入するのは必須であると思います。当時の加害者と被害者の様子を写したフィルムは必要であると強く感じました。この映画のクライマックスは針金を首に巻いて、何人も殺した現場に立って、当時の状況を語っていた主人公が突然、猛烈な吐き気に襲われ、何度も胃液を吐く場面(多分、このとき、殺された人間の立場に初めて立ったのでしょう)なのですが、劇映画では、人間の遺体を見て、嘔吐するというのは、余りにありふれた場面なので、余り、新鮮さはありませんでした。結局、かつての殺人者が贖罪するという、なんだか、ありふれた結末で、非常に、がっかりしました。所詮、欧米人のキリスト教的な価値観を押し付けられただけの映画である様にも思われました。しかし、決して、悪い映画ではありません。考える余白がたくさん残された映画でもあります。この映画の製作者の高い志は評価できます。週刊新潮では映画評論家のグレゴリー・スターさんが、96点という高い点数を付けていました。そう、悪い映画ではないのですが、なにぶん、こちらの期待値が高過ぎたので、☆は二つ半、と云うことになります。悪しからず。
原一男の「ゆきゆきて、神軍」、小林正樹の「東京裁判」、マイケル・ムーアの「ボウリング・フォー・コロンバイン」、或いはクロード・ランズマンの「ショアー」といった傑作と肩を並べる作品になるか、と期待していたのですが、なんとも残念な結果となりました。