「事件が起きるのが分かっているのに準備不足な主人公にイライラ」オッド・トーマス 死神と奇妙な救世主 Fate number.9さんの映画レビュー(感想・評価)
事件が起きるのが分かっているのに準備不足な主人公にイライラ
まず個人的に気になったのは、ホラーやサスペンスよりも青春ラブコメがやりたいのか、登場人物の会話に冗談や皮肉混じりの軽口が多いせいで、作品全体の雰囲気がそのノリに引っ張られて"軽い"感じになってしまっている事。ヒロインのストーミーが天井に張り付いたアイスを客に出したり、死体がオナラをしたりと、妙にコメディのようなギャグ?まで入れてくるので、起こる事件のシリアスさと普段の軽いノリのバランスの悪さに違和感がある。
また、主人公の霊能力だけでは具体的に、「いつ」、「何処で」、「どんな事件が起きるか」が分からないため、手掛かりを得る過程に「予知夢を見る女性」が出てきたり、最初に当たりを付けた男がさっそく犯人(の仲間)だったりと、ご都合主義的な展開が多くなっている。もっと与えられた霊能力を使って事件の発生場所や犯人を追って行くロジカルなミステリー要素があれば面白くなったし、霊能力と言う設定にも必然性が増したはず。例えば「すでに彼が死んでいるのを知っていたのは霊を見れる自分を除けば、彼を殺した犯人以外にいないはず!」といった論理展開で犯人を追い詰めていくようなシーンが欲しかった(あとから「警官が犯人だったからあの時不思議そうな顔をしたのか」という展開はありましたが、推理要素はそれくらい)。
また、この手の「霊が見える」というキャラ設定はよくあるものの、最初から周囲の人間に理解者がいるせいで、本来、描くべき主人公のキャラが深堀りされないままどんどん話が進んでしまい、霊が見れる事の苦悩などがまったく感じられませんでした。本来なら周囲の偏見や誤解などに翻弄されながらも、なお大切な家族や友人を守るために頑張る姿に感情移入するものですが、そうした葛藤を含む「周囲の人間との関係性」がほとんど描かれないので、主人公の気持ちや行動原理がよく分からずじまい。
それでいて、霊能力の事を知っている他の登場人物たちが何も活躍しておらず、爆弾の所に案内してくれるリゼットの幽霊以外、「この人がいなければ事件を解決できなかった」という、ストーリー展開に密接に関わって来るキャラが一人もいない。特にヒロインのはずのストーミーはラストに「シックスセンス」オチにしたかったために殺されただけの存在。これで「ラストに感動した!」とか言ってる人って、失礼ながらまともな映画や漫画やアニメとか見た事ないのかなと思ってしまう。主人公を助けるために犠牲になるならともかく、作中では何ひとつ事件解決に寄与していないし、それどころか、犯人の家を探索中の主人公へ電話を入れてくる始末。もし付近に犯人がいたらそのせいで主人公が殺されていたかも知れない愚行。もう少しキャラとしてまともな使い方があったろう(電源切ってない主人公もアホだけどw)。
また突っ込み所として、あの日、ショッピングモールで何か大きな事件が起きるのが分かっているのだから、アメリカなら当然銃撃事件の可能性くらい想定して、せめて自分と彼女は防弾チョッキくらい着ておけよと。そうすれば彼女も死なずに済んだはず。武器も店の野球のバットや犯人の銃を奪うなど現地調達したりと、あまりにも準備不足。事件に備えて予め武器や防具を用意しておくという頭が無い主人公にイライラさせられた。犯人側にしてもまったく連携もとらずにバラバラに別行動し、完全武装しているのに素人の主人公の野球バットや拳銃一発で仕留められたりと、あまりにも安直でご都合主義的な解決に見ていてガッカリ。
良くも悪くも深く考えずに見れる、普段あまり映画や漫画を見ない若い人や一般層向けのエンタメ作品かと。