「遠い夜明け」それでも夜は明ける 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
遠い夜明け
2014年アカデミー賞で作品賞・
助演女優賞・脚色賞を受賞した話題作。
1840年代アメリカ。突如奴隷として売られ、
理不尽な差別を受け続けた実在の
黒人男性の12年間を描く。
* * *
同じく黒人差別を取り扱った
『大統領の執事の涙』の場合は、
黒人の権利が向上していく流れを
ダイジェスト的に追っていて分かり易く、
トーンもいくらか明るい。しかし、
「新たな知識や視点を与えてくれるか」
という点ではやや弱いとも感じた。
一方、
『それでも夜は明ける』の舞台は1840~50年代。
リンカーンの奴隷解放宣言が為された南北戦争の
終結は1865年らしいので、黒人の権利向上
どころか未だに奴隷制が廃止されていなかった
時代の物語である。
少なくとも僕はこの頃の黒人差別を
扱った映画を観たことがなかったし、
“自由黒人”なる身分についても初耳で、
黒人間で身分格差があるという描写も新鮮だった。
* * *
本作で描かれる差別描写には情け容赦が無い。
そんなに多くの黒人映画を観た訳でも無いが、
今まで観た中で本作は最も惨(むご)い。
ペットですら、いや、家畜ですら
こんな扱いは受けないだろう。
理不尽に繰り返される暴力。
生気を失った奴隷たちの表情。
戦おうだなどとは誰も考えられない。
聖書の朗読は侮蔑と悲鳴に掻き消される。
溢れ出す怒りと苦しみと哀しみは 、
とうとうと唄う事で溶かす他に術が無い。
観ている内に、こちらの感情まで
麻痺してしまう感覚を覚えた。
これをそのまま体験として
受け取るには惨過ぎるのだ。
* * *
非道(ひど)い人間ばかり登場する本作の中でも
飛び抜けて醜悪なのがエップス夫妻。
血肉が飛び散るほど激しく鞭を打つ。
人をおもちゃのように踊らせ歌わせる。
自分たちの不幸もすべて奴隷たちのせい。
奴隷の女パッツィへの扱いは特に救いがない。
主人エドウィンからは道具のように犯され、
嫉妬する妻からも理不尽な暴力を受ける。
(あのバカ奥様は、夫を愛してるとかではなく、
どんな才能・教養であれ自分より勝る点を
持つ奴隷が鼻持ちならなかっただけだと思う)
「俺は俺の所有物で遊んでるだけだ」という台詞。
あれって冗談のつもりは微塵も無いのだろう。
人種や外観が違うというだけで、一体どうして
ここまで『異物』として扱うことができるのか。
かつてこんな人間がいたと思うと背筋が凍るし、
その名残が今も根深く残っている事も恐ろしい。
* * *
ひたすらに苦しい映画だった。
最後はわずかに救われる気分にはなるが、
感情が麻痺してしまって涙は出なかった。
主人公のその後のいきさつも含めて、
爽快感よりもやるせなさが残るのだ。
当たり前のことが当たり前に行われなかった。
そんなやるせなさが。
『それでも夜は明ける』というタイトルは、
本作のトーンに対しては明る過ぎると感じる。
「我らを照らす太陽よ、貴方の姿が見えません」
陽が上るのはずっと先のこと。
まだまだ夜明けは遠い時代の物語。
<2014.03.14鑑賞>
お久しぶりです。
ロボコップへのコメントありがとうございました。
キャプテン・アメリカのレビューを書きましたが、
とっても反米的なレビューになっちゃいました(苦笑)
>「それでも夜は明ける」
「遠い夜明け」を引きずり過ぎの邦題で笑えますね。
この手の映画、カラーパープルとかミシシッピーなんちゃらとか、
アメリカの黒歴史映画は、私的にはお腹一杯で見てません。
でもこうやって何度も映画化することで、
新しい世代に提示し続けることは大切なことだと思いますね。
どこかの国のように、「見せない」規制する方向ではなく、
私はなるべく公開して、後は受け手に委ねる方が正解だと思います。
こういう映画を「自虐的」と批判する人がいない分、
どこかの国よりはマトモなんじゃないでしょうか。
フィリピンに住んでると、奴隷制度が今日も続いていることが分かります。
長年に渡ってスペインに支配されて来たために、
その負の遺産が彼らの骨の髄にまで沁み込んでしまっています。
日本が過去の歴史において、実質的に「植民地政策」を経験していないことが、
現在の発展途上国での会社経営に失敗する主因になっています。
逆に欧米各国にとっては、過去の植民地政策のノウハウが、
現在のBPOなどに成功するキーポイントになっているのです。
日本は相手を日本人と同等に扱い、同等の能力を期待するのですが、
それが全然ダメ(苦笑)、上手く行かないんです。
欧米は相手を(合法的)奴隷とみなし、それ以上の能力を期待しないんです。
だから上手く行く。皮肉なハナシでしょ?
今も巧妙に奴隷制度は続いています。
浮遊きびなごさん
米ありがとうございます。
本当にオスカーって何ですかね。
私もウルフオブウォールストリートに
賛成ですが、流石に世論が(笑)
個人的にはゼログラビティに
とってほしかった所です。
浮遊きびなごさん
昨日観てきました!
みた後にやるせなさがのこる暗い
作品でしたね。
オスカー、オスカーと騒がれましたが
単純なエンターテイメントとしては
該当しないのではないでしょうか。
演技は素晴らしかったですけどね。
かかれたレビューに同感です。
浮遊きびなごさん
こんにちわ。
私はまだ見ていないのですが
週末に鑑賞予定です。
レビューを読ませて頂いて、
非常に楽しみです。
今週末は新作ラッシュで
ウォルトディズニーの約束
ローンサバイバー
LEGO
LIFE
ワンチャンス
神様のカルテ2
を見たいと思います。
腰がもつか心配です(笑)