「黒人を侮辱する単語も、その意味すらも知らなかった。」それでも夜は明ける アルさんの映画レビュー(感想・評価)
黒人を侮辱する単語も、その意味すらも知らなかった。
人種差別という非常にセンシティブな内容に、ド直球で切り込んだ素晴らしい作品。未だに根深く残るこの問題に、無知というのは言い訳にならない。鑑賞して自身の無知を心から恥ずかしく思うと同時に、こんなにも酷い時代が本当にあったのかと衝撃を受けた。
普通の日常が一変してしまう恐ろしさ、そしてそれが当たり前となっている法律、心が折れて抵抗すら出来ない程の圧倒的な暴力。冒頭から観ていて気持ちがずっとモヤモヤ、気分が悪くなるくらいの現実。
字幕で鑑賞、冒頭からカタカナで『n※※ger』という言葉が幾度となく出てくる。何となく黒人奴隷の総称の様な使い方をしているのは分かったが、気になって後から調べてみると単語自体がタブーとされる程の強烈な言葉。そして物語が進むにつれて、使ってはならない程の過去があったと、嫌でも納得させられる。
主人公ソロモン(プラット)役キウェテル・イジョフォーが、迫真の演技で、苦悩、苦痛、憤り、悲しみ、後悔。そして、家族への愛と、12年という奴隷としての強制的な時間の重みを表現。とにかく演技が素晴らしい。
時代がそうさせたとは決して言い切れない、人間の醜い部分を"これでもか"と見せつけられる。何よりこの筆舌に尽くし難い程の嫌な役を演じ切ったエップス役マイケル・ファスベンダー、エップス夫人役サラ・ポールソンに称賛を贈りたい。
【ジョーカー】や【レヴェナント】を観た後の様な、何とも言葉に表せられない複雑な感情。気持ちの整理がつかず、感動のラストのはずが気持ちが涙まで辿りつかない。
アカデミー作品賞受賞も納得の脚本、時折挟まれる絶妙な間は、物語の深みと鑑賞者の没入感を最大限に引き出している。史実を題材にした映画としては、かなり高い完成度。ただ史実をなぞって投げっ放しにするのではなく、しっかりと問題提起まで昇華している。
重たい内容だが、(自身を含めて)世界を知らな過ぎる日本人に、是非観て頂きたい、考えて頂きたい作品。