劇場公開日 2014年8月16日

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ホットロード : インタビュー

2014年8月16日更新
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能年玲奈&登坂広臣「ホットロード」で苦悩の末に見出した“答え”

なぜいま「ホットロード」を映画化するのか? この2人こそ、その答えである。「伝説的」「映像化不可能」といった言葉で形容される漫画や小説が、飛躍的な進化を遂げた映像技術により映像化されることが珍しくなくなったが、「ホットロード」に関して言えば、1986年に原作漫画が発表された当時から、映像化自体は決して不可能ではなかった。CGによる映像技術も俳優陣のアクロバティックなアクションもいらない。ただひとつ、求められるのは“空気感”――和希と春山が確かにそこに息づいているという空気そのものである。発表から28年を経て、原作者・紡木たくが、和希と春山として生きるにふさわしい存在として原作を託したのが、能年玲奈登坂広臣(三代目 J Soul Brothers)だった。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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母親に愛されていないと感じ、冷めた目で世界を見つめる和希と命を投げ出すかのようにバイクにまたがり、疾走する春山。孤独でもろさを抱えた2つの魂が寄り添い、共鳴していくさまが美しくもせつなく描き出される。

“あの”「ホットロード」の映画化だが、能年にとっては、社会現象を巻き起こした“あの”「あまちゃん」の放送終了後、初めての映画出演となる。次は何をするのか。世間の耳目を集める中で不朽の名作の映画化作品への出演。「もう出演が決まった状態で聞いたので、とにかくビックリという感じだったし、どうすればいいんだろう? という思いはありました」とその時の偽らざる思いを口にする。

原作ファンを裏切らないよう忠実に、和希を演じるということを前提とした上で「私が演じる中でぶれずに“軸”を持ち続けるということを決めて臨みました」と明かす。「まず考えたのは、少年のような女の子に見えたらいいなということ。そこで和希の少年っぽさや素直になれない感じを“暴力的に”表現できたらと思い、(登坂への)頭突きであるとか殴るシーンも、申し訳ないと思いつつ(苦笑)、思い切ってやらせていただきました。あとは、和希が“重さ”を一切感じさせずに映っていたらいいなと。それはセリフもですが、動きや立っている感じも含めて。私は普段、わりとドシドシと歩いてしまうので(笑)、フワッとした軽さを意識しました」。

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一方、登坂にとっては映画出演どころか、演技すること自体が初めて。全てが初めての経験であり、緊張や重圧は想像するに余りある。そんな登坂の背中を押したのは、春山役に指名した原作者・紡木の言葉だった。「先生にお会いして、話をさせていただいたんですが、最後に『春山をやりたいですか?』と聞かれたんです。そのとき『もし自分でよければやらせていただきたいです』と答えたんですが、その瞬間、先生がこれまでずっと、ご自分の中で大切にされてきたものを渡してくださったように感じたんです。何気ない会話の最後の最後で言ってくださったんですが、その時、スイッチが入ったというか、気が引き締まって、初めてのことで未熟ながらも精一杯やらなきゃ失礼だ、自分に出来ることは全てやろうと思いました」。

登坂が生まれたのが、連載が終了した87年。能年に至っては、さらに6年後の93年生まれ。そんな2人の目にこの物語はどのように映ったのだろうか。なぜ28年を経たいまもこれだけ愛されるのか。能年は、自らが受け止めた思いをこう表現する。

「すごく、空気感が綺麗な作品だなと思いました。その空気に――吸い込まれるような感じが素敵なのかなと思います。私にとっては知らない世界がそこにあって……三木(孝浩)監督から『いまの人たちにも通じる作品にしたい』と言われて、時代背景はすごく違っているので、その溝をどう埋めるか悩んだ部分でもあったんですが、親への反抗心という部分はいまの子たちにも通じるのかなと思い、そこは大事に演じました」。

登坂は、和希と春山の2人が出会い、惹かれ合っていく中で徐々に変化していくさまに時代を超えた普遍的なメッセージを見出した。「大切な存在ができたからこそ、相手だけでなく自分のことも大事にしようという気持ちになっていく。性別や世代を問わず、そういう大切なものを描いている作品であり、そこが多くの人の心をつかんだのかなと思います」。

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“空気感”というものほど曖昧模糊としたものもない。目で見るものでもハッキリと言葉で表現できるものでもなく、感じるものであり、俳優陣のちょっとした佇まいや言い回しによって確実に変わっていく。能年は、和希と春山の出会いの瞬間で、その空気を最大限表現しようとした。

「和希は、春山と初めて会った瞬間に惹かれ始めていたと思ったんです。ムカつくという部分と惹かれているという部分――その流れが一瞬で見えたらいいなと思いました」。登坂が「原作を読んだ時、特に印象的だった」と語るのが、春山が和希の母親に「こいつ(和希)のこと嫌いなの? おれがもらってっちゃうよ」と告げるシーン。「紡木先生も大切にされているシーンだとうかがっていたので、実際に演じさせていただいたときもすごく印象的でした。和希と母親の関係が色濃く描かれていて、お互いが作り出した空気感に寄り添えるようにと、イメージしながらやらせてもらいました」。

映画初出演の登坂の口から「寄り添う」という言葉が出てくることに、驚きを覚える。役柄について、シーンについて真摯に考え抜いたのはもちろんのこと、その上で春山になりきって映画の中の世界を生きての“実感”だろう。それは、特に印象的なセリフは? という問いへの答えにも表れている。

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「映画の終盤で春山が言う『死にたくない』という言葉ですね。和希と出会う前は、死をも恐れず、命を大切にしていないところがあったけど、死に直面した時に最初に出てきたのがこの言葉であり、心の声だと思う。春山という人間を見てきた中で、変わってきた部分、彼の人間らしさが表れていると思います」。

能年の口からは何度も「悩んだ」という言葉がついて出る。インタビュー中、こちらの質問に対し、時に十数秒の沈黙と共にじっと考え込み、慎重に言葉を選びながら自らの内にある思いを表現しようとする。そんな様子を見て改めて、紡木氏がずっと大切に抱えてきた我が子とも言える和希という存在を、能年に託した理由が理解できた気がした。苦悩と葛藤、重圧の中で、若き2人が見つけ出した“答え”をスクリーンの中から感じてほしい。

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