「時代劇も大部屋俳優も、失われる事はない!」太秦ライムライト 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
時代劇も大部屋俳優も、失われる事はない!
時代劇好きなら知らぬ者は居ない“斬られ”役の名優・福本清三の、おそらく最初で最後の主演作。
劇場公開に先駆け、以前NHKーBSで放送し録画したものを、公開直前に(贅沢に)鑑賞。
福本氏主演の映画を企画した製作陣にまず拍手を贈りたい。
タイトルから分かる通り、チャップリンの「ライムライト」がモチーフになっている。(福本氏演じる香美山の大部屋にも「ライムライト」の写真が貼られてある)
長年時代劇の斬られ役として活躍してきた香美山。しかし、出演続けていた長寿時代劇番組が終了し、若者向けの時代劇が増え、活躍の場を失った香美山は、時代劇ショーで食い繋ぐ日々。そんなある日、オーディションに合格した若い女性・さつきから殺陣の指導を申し込まれる。断る香美山だったが、さつきに往年の女優の面影を見、稽古をつける事に…。
「ライムライト」というより、福本氏の俳優人生そのものを見ている気がした。
地道に積み重ねてきた斬られ役としてのキャリア、往年の時代劇スターからの激励、スタジオの顔馴染みや同じ大部屋俳優からの熱い信頼、時代の流れと共にどんどん隅へ追いやられていく…。
もう劇映画風ドキュメンタリーと言っていい。
劇中の香美山の「一生懸命やっていれば、何処かで誰かが見ていてくれる」は福本氏を体現した台詞だ。
香美山の指導で殺陣の腕を上げたさつきはチャンスを活かし、スター女優への道を歩む。反比例するように、老兵は去る。やがてさつき主演の時代劇映画が製作される事になり、恩師との共演を望む…。
「ライムライト」と違うのは二人の関係が“恋愛”ではなく、“師弟”である事。
これ、今回の映画で非常に良い効果を上げている。
弟子の活躍を影から見守る香美山、恩師への敬意を忘れないさつき。
師弟関係だけではなく、「ミリオンダラー・ベイビー」のような人間愛も感じた。(一瞬、福本氏の顔がイーストウッドに見えた)
数年前に某長寿時代劇番組が終了し、地上波から時代劇が姿を消した。NHKの大河ドラマや映画で時代劇は今も作られているとは言え、大部屋俳優の活躍の場が激減したのは事実。
劇中で、福本氏の台詞は多くはない。が、失われていく時代劇の嘆きと悲しみを、福本氏の語らぬ佇まいが訴えている。
時代劇を知らぬ世代が作る若者向けの時代劇が増えてきている。
が、時代劇の精神を受け継ぐ者もいる。
本作は、時代劇への愛を名も無き名優の姿に込めた讃歌なのだ。