劇場公開日 2013年11月1日

  • 予告編を見る

「いわゆる男女の痴話喧嘩(または腐れ縁)を、新たな視点で」恋するリベラーチェ cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0いわゆる男女の痴話喧嘩(または腐れ縁)を、新たな視点で

2013年11月11日
iPhoneアプリから投稿

笑える

悲しい

知的

ラスベガスで成功と富をほしいままにしているリベラーチェと、何の拠り所もない獣医志望の美青年スコット。親子ほどの年の差、華やかなショーマンとその運転手という力関係、そして同性愛…。はじめから破局は目に見えている。そんな二人の出会いと別れ…と思ったら。破局の後も、物語は続く、人生は続く。そこが意外で、新鮮だった。諸々の後処理、再出発、そして再会と本当の別れ。ドラマティックなあれこれが、淡々と語られていく。遠い物語と眺めていたはずが、いつしか自分の遠い記憶となぜか重なるように思われ、胸に迫るものがあった。
ただならぬ「運命の出会い」を果たし、これは壮大な勘違いに違いない、醒めない夢はない、と底知れぬ不幸の影に気付きながらも、のめり込む二人。束縛し、振り払い、しがみつく。男女ではうっとおしさが先走りそうなやり取りも、彼らがやると違った佇まいとなる。リベラーチェは、若い恋人に高価な品を与えまくり、自分に似せた整形手術を受けさせる。一方の若者スコットも、自分の存在価値=若さと美を失うまいとしてダイエットと薬物にはまっていく。この流れは、決して特異な逸脱ではない。与え•与えられることに底はなく、やればやるほど、拒まれる不安と満たされなさが増していくという皮肉は、多くの人にとって、身につまされる痛みのはず。普遍的なこと、わかりきったはずのことを、一見遠く掛け離れた世界の物語として捉えなおすと、いったいどのように映るのか。それは、本当にわかりきったことなのか。この作品は、そんな揺さぶりと発見を、観る者に与えてくれる。
これは、いつの時代にも、どんな場所にでもある、共に生きようとした二人の物語だ。関係を続けていく中には、色々なことが起きる。理不尽で、不可解で、それでいていつしか微笑みを引き出すような出来事が…。手を替え品を替え、繰り返し語られてきた男女の物語を、ゲイ•カップルの物語として置き換えるといえば、思い出されるのは「ブエノスアイレス」。カーウァイ監督への当時のインタビューによれば、もとは男女の物語だったものが男男の物語となり、レスリー•チャンとトニー•レオンが、追い追われ、すれ違う二人を演じたという。(その後、抜き差しならない男女の物語は「花様年華」へ昇華していく。)身一つで異国を彷徨っていた彼らの姿が、きらめく衣装に身を包んだ本作の2人と重なる錯覚を覚え、はっとした。
…それにしても。「私を愛した大統領」といい、本作といい、かつては公然の秘密というものが確かにあった。リベラーチェの同性愛も、ルーズベルト大統領の脚の障害も、今なら到底隠し通せないだろう。秘密を守り抜くことが難しくなり始めた頃から、タブーをカミングアウトする動きが活発化し、その勇気は称えられた。けれども、カミングアウトの嵐が吹き荒れすぎて、自分にとって大切な•重たい事柄を、心の奥底に沈め置くことの意味を忘れかけていないだろうか。秘密に関する物語は、単なる暴露ではなく、秘密を持つことの意味を問い直しているのかもしれない、とも感じた。

cma