劇場公開日 2013年12月21日

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キューティー&ボクサー : インタビュー

2013年12月18日更新
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日本人前衛芸術家夫妻の愛の軌跡を映すドキュメンタリー
篠原有司男&乃り子とZ・ハインザーリング監督に聞く

モヒカン刈りや「ボクシング・ペインティング」などのパフォーマンスで1960年代に日本で伝説のアーティストとして知られ、その後渡米、ニューヨーク在住40年の前衛芸術家篠原有司男とその妻でアーティストの乃り子に、当時29歳の米国人監督が5年間をかけて追ったドキュメンタリー「キューティー&ボクサー」が、12月21日公開する。来日した篠原夫妻とザッカリー・ハインザーリング監督に話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)

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今年のサンダンス映画祭ドキュメンタリー部門監督賞受賞をはじめ、世界各国の映画祭での高評価を得、今夏ワインスタインカンパニー配給で全米公開された。ザッカリー・ハインザーリング監督は、観客の好反応に驚きを隠せないようだ。「ストーリーは、ユニークな二人のラブストーリーですし、たくさんの観客の方にもアピールするポテンシャルはあると確信していました。ここまで圧倒的にポジティブな批評家たちからの評価が出るとは思っていなかったんです」

監督はほぼ毎週、篠原宅に通って撮影したそうで、ふたりのアーティストとしての葛藤から痴話ゲンカまで夫婦の生活が赤裸々に映し出される。乃り子は「アーティストというのはエグジビショニスト(exhibitionist)なので、とにかく見せたいんです。アーティストにとってのアートは体の表面だけではなくて心の中を見せるもの。それはヌード以上のものなんです。日常生活を撮られたって平気なんです」ときっぱり。

芸術家としてニューヨークで暮らすことはたやすいことではないが、夫妻にとっては苦労も糧となった。有司男は81歳という年齢をまったく感じさせないパワフルな生き様を見せ付ける。「親戚も弁護士も友達もいないし、アート表現だけを自分の力にして生きていかなきゃいけない。だから鋭く、タフになって人の心をつかまなきゃいけないっていうパワーができた。日本からの知名度は通用しなかったからね。英語もできなかったし、負け犬のように売れなくて将来真っ暗なやつだとか悪い批評もあったけど、けなされだしたら一流だっていうコンセプトがあるからね」

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映画の反響に比例し、篠原の作品への注目も高まっている。「この映画があったから、地下鉄でサインを頼まれたり、声をかけられたりするんです。僕の絵では絶対起きないことが起こってうれしいんです。ファイティングスピリットが沸いて、逆に刺激されてね。だから僕の作品のスタイルもオーディエンスに合わせて変えていこうかなと。自分の個性とパブリックなものをミックスして、わかりやすく、衝撃を与えたい。篠原アートを強くぶつけたいね」と力強く語った。

妻として、母として、そして女として、乃り子が夫婦の戦いの模様をつづったドローイング「キューティー&ブリー」がアニメーションで生き生きと表現される。「乃り子さんのマインドとハートをアニメーではシームレスに表現できます。作品は非常におとぎ話的な想像力にあふれるもので、その要素を映画的に見せることが面白いのではないかと思ったのです」(ハインザーリング)、「私はサイレントフィルムがすごく好きなんです。将来アニメになればいいという夢もあって、それにぴったりの動かし方だったから、彼がその道をひらいてくれました」(乃り子)

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出会ったときのふたりは40歳と19歳。今は夫婦という関係を超えて、唯一無二の関係を築いている。乃り子は40年間も連れ添った秘けつを「収入が少ないことよ」と冗談めかして明かす。「それが苦痛のひとつでもあるんだけど、それがつないだっていうこともあるんです。家賃を払うのにも大変だから、別れるっていうことが豊かな人たちのことだと思って、貧乏だからこそ一緒にいたんです。それに慣れてある程度のあきらめもあったんです(笑)。あとは、今はお互い結婚しているけれど距離を置く。それは私のほうから提案したこと。それで、続けることができるんです。フランスの女流作家コレットの言葉『愛を保つには距離を置かなければいけない』。それに近づこうとしているんです」

一方の有司男は「やっぱり二人三脚だね。2人で協力すると3人、4人分のパワーがでるんだよ。それはニューヨークで生活していると如実にわかるね。誰も助けてくれる人がいないから。だから、協力し合わないとね」といたってマイペースに持論を語る。芸術家・篠原有司男たらしめるのは乃り子の存在が大きいのではと話を向けると「みんなそう言うけどね(笑)。そうだね」と照れながらうなずく。乃り子にもし次の人生があったら同じパートナーと同じ人生を歩みたい? とたずねると「そうね、もう一回やるけど、もうちょっと上手にやるわ」とほほ笑んだ。

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