「ウソでもつかなきゃやってられない」アメリカン・ハッスル 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
ウソでもつかなきゃやってられない
『ザ・ファイター』『世界にひとつのプレイブック』と、
近頃ノりにノっているデビッド・O・ラッセル監督最新作は、
1970年代、詐欺師とFBIが協力して汚職政治家を検挙した
“アブスキャム事件”を元にしたサスペンスコメディ。
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ぽっこりお腹&バーコード頭というスッゲェ風貌のC・ベールを
始め(筋骨隆々のバットマンはいずこへ)、豪華キャストが
誰も彼も今までのイメージを覆すような風貌で熱演!
B・クーパーもJ・レナーも爆破された鳥の巣みたいな頭だし、
A・アダムスもセクシーなイメージ全然無かったんだけど、
なんすかあの服は。胸元ざっくりにもほどがある(笑)。
いやはや、’70s恐るべし。
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カメオ出演のあの人も含め、豪華キャストの誰もが
良い演技を披露しているのだけど、なかでも最年少の
J・ローレンスが抜群だった。一回り以上も年下とは思えない
あのスれた雰囲気はやっぱタダ者じゃないっす。
P・マッカートニーのあの名曲に合わせて
躍り狂うシーンなんて最高にカッコいい(笑)。
ゴーマンで独占欲が強い、怒り狂った山猫みたいな女。
己の感情のみに任せて突き進む彼女はこの映画において
とんでもないトラブルメーカーな訳だが、よく考えてみれば
ウソつきだらけの中で彼女は一番正直だ。
むしろ、正直過ぎる。
正直過ぎて相手に妥協ができない、加減も利かない。
そのうえ彼女はたぶん、自分がイヤな人間であると自覚して
苦しんでもいる(「変わるって私には難しいのよ」)。
あの議員さんも似たようなものだ。やり方こそ間違っていたが、
金儲けの目的は愛する故郷を貧困から救いたいという一心のみ。
汚職政治家にしちゃ真っ当過ぎる心根の持ち主だったと思う。
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思うにこの映画、正直者ほどダメージがデカいような気がする。
自分の身分(と頭髪)を偽り、
必死に他人に成りきろうとする詐欺師コンビ&FBI。
対して、疑う事を知らない議員と、自分に嘘をつけない女。
誰も彼も無傷では終われない訳ではあるけど、
後者2人の最後の姿には特に胸が痛んだ。
そりゃ自分に正直に生きられれば一番だし、
人を騙して儲けるような仕事なんて真っ平御免な訳だが、
世の中、バカ正直な人間の方が被るダメージは大きかったりする。
相手を疑ったり、適度に自分を誤魔化して生きる術だって、
時には必要なんだろう。やっぱ生きるのって難しいよ。
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というわけで、演技に関して不満はないし、
衣装や舞台もサイケな雰囲気たっぷりで楽しいのだが……
(お歳を召したアカデミー賞会員の方々にとっては
この辺りで得点が高いんじゃなかろーか)
難点は、上映時間がちょっと長過ぎると感じる点。
特に中盤辺りは間延びして感じられ、眠気にも襲われた。
また、展開上しようがないかもしれないが、ハイライトが
盛り上がりに欠ける点も残念ではある。
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監督の前2作が出色の出来だった分、そちらと比較すると
今回はちょっと見劣りするように思えたかな。
とはいえ、豪華キャストについても物語についても楽しい映画
だと思うので、観て損ナシの3.5判定で。
〈2014.01.31鑑賞〉
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余談:
映画の舞台になったNJ州の都市カムデンは、LA、デトロイトに
次いで全米3番目に治安の悪い都市と言われているそうな。
実は昨年のアメリカ出張の折にこの近辺で仕事する機会があり、
そこで初めてその事を知った僕はチワワばりにブルった訳です。
犯罪が多い理由の根底にはやはり職業難がある訳で、
そんな訳であの議員さんを悪く言う気になれない自分がいる。
あ、全国の政治家に『大義の為なら汚職もオッケー!』と
言ってる訳じゃないので悪しからず(そもそも
大義も無いのに汚職してるのの方が多いんだろうし)。
世直しするなら正々堂々とやってくださいな。