劇場公開日 2014年6月21日

円卓 こっこ、ひと夏のイマジン : インタビュー

2014年6月19日更新
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行定勲監督が“天才”と称える芦田愛菜の無限の可能性

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「彼女がやらないと言っていたら多分、生まれなかったでしょうね」。行定勲監督にこう言わしめたのは、もちろん芦田愛菜だ。「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」は、原作となる小説「円卓」の主人公・琴子(こっこ)が関西に住む小学3年生という、芦田との見事な符合によって誕生したといえる。行定監督も、子役としてではなく1人の主演女優として演出。「新しくキャラクターをつくれる逸材。可能性がいっぱいある」とその才能に目を細める。(取材・文・写真/鈴木元)

行定監督が西加奈子さんの小説「円卓」に魅かれ、映画化したいと思い至った理由は主に2つ。ひとつは、現代社会に生きる家族の在り方に対して抱いていた疑問に、答えを見いだすヒントを与えてくれたことだ。

「過去を振り返って昭和的な家族の団らんがなくなったという類のものではなくて、1人の偏屈というかちょっと不思議な女の子の個性をちゃんと育む覚悟が家族の中にある。今の社会は出るくいは打たれるというか、常識的に抑えようとするところを、ちゃんと考えさせてひとつのハードルを越えさせる環境ができているのがすごいと思ったんです」

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もうひとつは、渦原家の祖父・石太がこっこに授ける「いまじん(イマジン=想像する)」という言葉。東日本大震災後、被災地を訪れた際に被災した友人から言われた「世の中と自分たちの間に温度差があるような気がする」という言葉に起因する。

「じゃあ、どうすればいいのってなるんだけれど、相手の気持ちに立ってみればもうちょっといい方法があるんじゃないか、相手に気を使わせていたんだなって思った時に、そこに温度差があるのは当たり前だし、いい距離を保って彼らをうまく支援していかなきゃいけないということに至る。こっこも自分にすごく正直な子で、その個性を壊さないで成長させることの難しさは、これからの日本の在り方に今一番問われているような気がしたんです」

こっこは、大阪の団地で両親、三つ子の姉、祖父母と暮らす好奇心おう盛な小学3年生。孤独にあこがれ、思ったことは何でも口にし、気に入らないことがあると「うっさい、ボケ」と毒舌を吐き周囲を翻ろうするが、家族の愛、友人たちとのきずなに気付き成長していく。芦田はまさに意中の人だった。

「自然体の子どもを隠し撮りするような撮り方では乗り切れないと思ったんです。意図が分かるというのではなく、こっこの気持ちを一緒につくれる子で、小学3年生というのはものすごくハードルが高い。そこに愛菜ちゃんが(当時)小学3年で兵庫出身ってなったら、そりゃあ逃す手はないなと。もう、このためにいるんじゃないかって勝手に思い込みましたから」

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依頼を受けた芦田もすぐにストーリーに引き込まれ、こっこを演じることを心待ちにしながら撮影に臨んだ。

「お話がすごく面白くて、こっこちゃんがすごくかわいかったので、早く撮影が始まらないかワクワクしていました。撮影では、何にでも興味があって疑問を持っている女の子だというのは忘れないようにお芝居していました」

行定監督は、衣装などのビジュアル面以外は特に細かい注文はしなかったという。その中で芦田が、小道具の目玉の髪留めゴムをコロコロと動かしながら「こっこちゃんって、いろんなところを見ていますよね」と言ったことで、ある種の確信を得たそうだ。

「子ども的なんだけれど、この子はこっこを根本的に分かっているんだと安心したんです。好奇心があるということが理解できているから、そのひと言でもう大丈夫だと思えた。常に隣にいて2人で会話が成り立っていたし、一緒に作っている感じになるんですよ。若手の俳優で2回同じことをできない人っているでしょ。もう、腹が立つんだよね。この子は何回でもできますよ」

そんな褒め言葉に照れ笑いを浮かべる芦田だが、撮影が行われた昨夏は猛暑でもあり、苦労も多かったはずだが、思い出深い小学3年の夏休みになったようだ。

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「やっぱり円卓のシーンが一番、皆さんアドリブが多くて大変でしたね。テストと本番で違って、考えていないからどーしよー、みたいな。次に何を言われるかなってハラハラしたけれど楽しかったです。後はウサギですかねえ。暑いとすぐにばてちゃって、大変でした」

こっこは、夏休みに学校で飼っているウサギの面倒を見るが、暑さに弱くすぐに日陰に逃げようとする。そこで、叩けばすぐに冷えるアイスノンを大量に埋め地面を冷やして動きを活性化させる措置なども取られたという。加えて夏休みの宿題では血を吸う蚊の採集という大胆な自由研究に挑むこっこ。これには行定監督が冗談交じりに今夏の自由研究にと提案する。

行定「映画でもやったことを実践しましたって言ったら、皆、受けるよ」
 芦田「かゆくなっちゃうじゃないですか」
 行定「大丈夫だよ。宣伝にもなるし、やってみて」
 芦田「なんでそんなことしたの? ってみんなに言われますよー。行定監督にやれって言われましたって言っちゃうかも」
 行定「言っちゃっていいよ。僕、手伝うよ。かまれてあげるよ」
 芦田「じゃあ、虫よけしてから(笑)」
 行定「虫よけしたらダメだよ。来ないじゃん」

こんな脱線した会話もほほ笑ましく、2人が撮影、キャンペーンなどを通して築いた信頼関係が垣間見える。そして芦田は、こっこを演じたことで得たものを多くの観客に共有してほしいと願っている。

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「“いまじん”する、人の気持ちを想像するっていうのは大切なんだと思いました。こっこちゃんは自分が思ったことを正直に言ってしまうだけで、困った子でも変わった子でもないと思います。大人のように当たり前に悩んだりするんですけれど、お友達の見えない心を一生懸命見ようとするこっこちゃんの優しさを感じていただけたらうれしいです」

行定監督もそんな「女優」の姿に、やはり天才という言葉で称える。無限の可能性を秘めているからこそ、期待も高まるばかりだ。

「天才というのは後からついてくるものだから、なるべく最初に言いたくはないけれど、やっぱり天才なんだろうと思いますね。どんなふうに変わっていくんだろうなって思うし、可能性がいっぱいあるんですよ。冗談で探偵ものをやりたいって言っていたけれど、多分できちゃうんです。原作ものや漫画を模倣するのではなくて、新しいキャラクターを作れる逸材なんですよ。思春期を迎えるともっと楽しみだし、『伊豆の踊子』のようなものも見てみたいですね」

いつか、さらに成長した芦田が出演する現場で、行定監督がメガホンをとっている姿が見られるかもしれない。

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