悪夢ちゃん The 夢ovie : インタビュー
北川景子「悪夢ちゃん」で再認識した“女優業”の醍醐味
「こだわり」を持った生き方が尊ばれるいまの世の中で、北川景子はこだわらない。「女優だからこうでなくちゃいけないとか、きれいな姿しか見せたくないという意識は全くないです」。2月に公開された「抱きしめたい 真実の物語」ではノーメイクの顔を歪ませ泣き叫ぶ姿を躊躇なくさらした。「悪夢ちゃん The 夢ovie」のプロモーションの一環で「ももいろクローバーZ」に電撃加入し、“きもクロ”の一員として激しいパフォーマンスを披露している。(取材・文・写真/黒豆直樹)
北川に話を聞いたのは、事務所の後輩でもある「ももクロ」と参加したイベントを終えたばかりのタイミング。ドラマ版の主題歌に合わせ、20歳前後の後輩たちに何ら引けを取らないキレのあるダンスを披露する姿は、いわゆる“モデル出身のクールでスタイリッシュな若手トップ女優”のイメージからはかけ離れている。これが北川の女優としての覚悟? 主演女優の責任感? そんなこちらの問いに「いやいや(笑)、というか私自身、楽しんで乗っかっていますから!」と屈託のない笑みを浮かべる。
「お芝居に関して言えば、表情を崩すのが恥ずかしいとか、メイクしないで出るのが嫌という気持ちは全くないです。役として作品の中で息づくことができるか? それだけを目指しています。『ももクロ』ちゃんとの共演は企画ですけど(笑)、SPドラマ(『悪夢ちゃんスペシャル』5月2日放送)で彼女たちが夢を追いかける女子高生を演じてくれています。悩んだり、勇気を持てなくて迷った時に背中を押してくれる物語になっていて、だからこそ必要な企画だと思いました。何より私も面白いと思って喜んでやっています(笑)。私は作品の一部。作品というメッセージを伝えるためなら、作品の中でも外でも何だってやります」。
気づけばデビューから10年が経った。「現場での立ち居振る舞いやルールを覚えて、少しは余裕が出てきたかもしれない。それは昔と比べ一番変わったところ。でも作品への姿勢や仕事に対する考え方はあまり変わってない」という。
「出会いに導かれてこの仕事をしていますが、私の仕事はお芝居をして、作品を通じて世の中に何かを問いかけたり投げかけたり、感動を届けること。10代の頃からむしろ、そのことだけをシンプルに追いかけてきた。伝えたい、驚かせたい、楽しませたいと思って1日1日を過ごして、いつの間にか365日が過ぎて、それが10年になって、いまがある感じですね」
そう、出しうる全てを出し切ることは、北川にとって「こだわり」ではなく「当たり前」のこと。その結果が現在の目覚ましい活躍だが、それにしても凄まじい。昨夏の「謎解きはディナーのあとで」以降、「ルームメイト」「ジャッジ!」「抱きしめたい」と続き、今回の「悪夢ちゃん」と全て主演もしくはヒロイン。決して“ブーム”ではない。常に周囲から求められる存在となってきた。
「ありがたいことに仕事が途切れなくなったのは自分でも分かります。ただ『自分が』というよりも、作品が持っている“力”をすごく感じますね。『謎解き』も『悪夢ちゃん』もまず原作が素晴らしいですし、ドラマのパッケージとしてもすごく魅力的なので、私以外の人がやっていても確実にヒットしていたと思います。そういう意味で私はラッキー。もしかしたら、最初に声をかけた人のスケジュールが合わなかったのかもしれないし(笑)。ただ、手にした幸運を逃したくないとはいつも思っているし、自分が置かれた場所で最大限輝けるようにと出来ることを全うしてきた。おかげで、昔は応援してくれる人も同世代の女性ばかりだったのが、いつの間にか小さい子や年配の方、男性にまで広がってきたという変化は感じます。それはただ『ありがたい』の一言です」。
忙しさに目が回ることは? という問いに、即座に「ないです」とかぶりを振る。「仕事がない時期に『消えてしまいたい』と思ったことはありますけど(笑)。いまは忙しければ忙しいほど楽しんで仕事をしていますね。そういう意味でもすごくいい時期なのかもしれません。デビューしたばかりの右も左も分からずに緊張ばかりだった頃と比べると、緊張感と楽しむ余裕が共存して、馴れ合いではなく仕事に臨めているのかなって思います」。
年齢とキャリアを重ねる中で、演じる役柄が変化してきたことも実感している。「いろんな役と一緒に自分も成長できた10年だったのかもしれない」と北川。本作で演じているのは小学校教師の彩未。連ドラ当初は表向き、優しい理想の教師を演じていたが、クラスの児童たち、過去の自身と向き合うことで、取り繕うことなく子どもたちと接するようになっていく、まさに回を重ねるごとに大きな成長を遂げていく主人公である。
「役というものは向こうから、いまの自分に足りないものを携えて舞い込んできてくれるものなのかもしれないなと感じます。やっぱり私自身が未熟な頃は、“腰掛け”の教師や刑事の役が多かったんです。『いまのあんたにはこれが必要なんだよ』って役の方から飛び込んできて、考えさせてくれるというか。この仕事が、監督や共演者のみなさんとの出会いはもちろんですが、やはり一番大きいのは役との出合いなんですね。今回も連ドラからSPドラマ、映画と彩未先生と一緒に成長できたと思う。役がこっちに向かってきて、挑んでくるけど、そこでその役の人生を歩み、一緒に生きることで成長する――それはこの仕事の醍醐味ですね」
教師として子どもたちと一緒に過ごすことは、驚きと発見の連続。連ドラ終了から映画の撮影まで半年のブランクがあり、その間の子どもたちの成長に目をみはり、改めて感じることが多々あった。
「ドラマの時に思ったのは、子どもは大人が思うよりもずっと考えて、いろんなことを理解している個々の人格なんだということ。どこかで自分も“個人”ではなく“子どもたち”という風にとらえて、『子どもだから』とか『イマドキの若い子は』と固定観念で見ていたところがあったと気づかされました。今回、半年ぶりに再会して、本当にみんなスポンジのようにいろんなものを吸収し、あっという間に成長していくんだなと実感しました。見た目も変わるし、半年前はなついてくれていた子が急に距離を取るようになってたり(笑)。すごく繊細で、自我が芽生えてくる時期で、それが私にはまぶしかったです。成長をそばで見られる教師という仕事が羨ましくもあるし、でもそれは私がこの仕事の良い面だけを見ているだけなのだろうし、逆に教師という仕事の難しさも感じさせてもらいました。それから改めて、私を指導してくださった恩師の方々はみなさん素晴らしい先生だったなということも」。
映画で最も印象深いのは、彩未先生の経験する“挫折”だという。
「これまで『先生、助けて!』と悪夢ちゃんが言ってきて『しょうがないわね』と私が助けるのがお約束でしたが、それが映画では大きく変わり、子どもたちが自分たちで解決の糸口を見つけようとします。彩未先生にとっては、自分が全てを見えているかのように子どもたちに言ってきたけど、実は何も見えてなかったと気づくところでもある。その時、どんな表情をして、どう挫折に向き合うのか。彩未先生はきっとそこで卑屈になるような人間ではないし、ぶっきらぼうでもやっぱり自分の教え子のことを好きになってくれる先生だと思う。映画では描かれない、彩未先生がこの先、どんな教師生活を送っていくのかというところまで思いをめぐらせて、楽しんでいただけたら嬉しいです」。