劇場公開日 2014年1月11日

トリック劇場版 ラストステージ : インタビュー

2014年1月7日更新
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阿部寛、シリーズ完結編となる「トリック劇場版」への“ラストメッセージ”

14年前の「出合い」の瞬間を阿部寛は鮮明に覚えていた。ちっぽけな研究室。「ものすごく暑い時期でね、狭い空間にスタッフ、キャストの熱気と集中力が凝縮されていて。もしかしたらシリーズの中で一番、克明に覚えているかもしれない」。そんな強い思い入れを持つ研究室にようやく帰ってきた。シリーズの最後を飾る完結編「トリック劇場版 ラストステージ」での14年ぶりの帰還。「実は、ずっと帰りたかったんです、あの部屋に。上田次郎と山田奈緒子の全ての始まりはあの場所だから。最後の最後で戻れて嬉しかったし、『あの時と同じだな』と思いながら撮影に臨んでいました」。そうして阿部は、感慨と感傷に静かに身を浸しながら、研究室の椅子に再び腰かけるまでの14年の“放浪”を語り始めた。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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2000年に深夜ドラマとしてスタート。自称超売れっ子の天才美人マジシャン・山田(仲間由紀恵)と同じく、だまされやすい天才物理学者・上田の凸凹コンビが怪奇事件の裏にあるトリックを見破っていくという、コミカルかつスタイリッシュな構成がファンの心をつかんだ。

いまでこそ阿部がコミカルな役を演じることに違和感を持つ視聴者はいないが、2000年当時、映像作品で阿部が三枚目の男を演じ、端正な顔を崩し、時に自身のモデル時代の自虐ネタまで披露する姿は驚きをもって受け止められた。

「確かに主演クラスでコメディを連ドラでやれる時期じゃなかったですね。だからこそ、これだけ人を笑わせる役というのに魅力を感じましたね。堤(幸彦)監督の作品は『ケイゾク』も『池袋ウエストゲートパーク』も見ていて、すごくインパクトが強かった。特に『ケイゾク』と同じように、コンビでやれると聞いて、どうやったら面白いコンビになるかな? って考えて燃えていましたね。いまでも由紀恵ちゃんが『阿部さんがいろいろやって来て困った』って言っていますが(笑)、特に当初は奈緒子は苦悩の中にいるキャラクターで、上田だけが突出して変人だった。どんどん飛び込んで、この美しい20歳の女の子が変人物理学者に巻き込まれて、最後にキレる。そこを楽しんでいた」。

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「『ケイゾク』と同じように」という言葉は、単に「2人組」という意味ではない。当初、同作で中谷美紀と渡部篤郎が体現したコミカルだがクールなキャラクターへの憧れを抱いて飛び込んだが、進むにつれて「そっちの路線じゃない」ことに気付いた。「渡部さんのような格好いいけど面白い路線かと思っていた。踏み込んでみたら、どうも違うって(苦笑)。大ウソつきの変人だった(笑)。その先は、変人オタクに転じようって迷いなくアクセルを踏みました」。

先の見えない連ドラだからこそ、そして臨機応変さを求められる堤組だからこそ、出来上がっていったキャラクター、コンビネーションとも言える。

「最初の内は台本を読んで、どうしようかと悩んで現場に行くんです。『じゃあ、こういうキャラで』と持って行くと、いとも簡単に現場で壊される(苦笑)。いまだにそうですが、堤組は現場でどんどん変わっていく。最初は付いていくのが大変で緊張もしました。(セリフが)変わったと思ったら『はい、スタート』だから(笑)。そういう意味で第1シーズンは大変だったけど、上田というキャラを一気に紹介できた時期だったとも思う。普通は後半でマンネリ化していくけど毎回、神出鬼没で突拍子がない。そこできっちりと上田を確立できたと思います。そして徐々に奈緒子が手強くなってきた(笑)。シーズンを重ねるごとの変化――それは熟成ですよね。奈緒子も上田も全く成長はしないんだけど(笑)」。

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14年――阿部の口を借りると「小学1年生が成人する時間」である。上田は成長せずとも、阿部を取り巻く環境は大きな変化を遂げた。本作以降に舞い込んだ『チーム・バチスタ』シリーズ、ドラマ「結婚できない男」などで演じた、有能で格好いいのに二枚目とは言えないクセのあるコミカルなキャラクターは、もはや一つの“路線”として確立された感さえある。こうした役柄を演じる上でも、『トリック』はある意味で対立軸として阿部の中に常に存在し続けた。

「上田とは違う役を作るという意識は常にありました。どんなコミカルな役でも『トリック』と同じようにはしない。上田という役が常にあったからこそ、それとは違うコミカルな人物を探し続けた14年でもあったと思います」。

「ありきたりな言い方だけど…」と前置きし、阿部は改めて、俳優人生に転機をもたらしたこのシリーズを「マイホーム」という言葉で表現する。「1作終わると離れて、他の作品で違う役を楽しむけど、また帰ってくる。気心の知れた仲間たちがいる家なんです。他の作品に出るのが“仕事”で『トリック』は我が家(笑)。シーズン2くらいからそんな感覚でした」。

だからこそ、本作が完結編と聞いて「本当に最後かな?」と実感がわかなかった。「本編は終わってもスピンオフの『警部補 矢部謙三』は続きますよ、きっと(笑)。ここは一度、矢部(生瀬勝久)に出させてもらって」とおどけつつ、ポツリとつぶやいた。「寂しいですよ、やっぱり」。そして、今回の終幕をひとつの“布石”として受け止めることにした。それは、阿部と仲間が以前からたびたび口にしている希望でもある。「理想は70歳くらいの奈緒子と上田を演じることですね。ここで一区切りつけて、何十年後かにもう1回やれたら。そのとき、どんな演技ができるのか。楽しみだね」。

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