すべては君に逢えたから : インタビュー
玉木宏&高梨臨、クリスマスの奇跡に「大切な人のことを改めて素直に考えた」
ニューヨーク、パリ、ロンドンなどの大都市はしばしば映画の顔となるけれど、国際的なカルチャー発信地・東京を“主役”にした映画は意外なことにあまり製作されてこなかった。そこで、来年で開業100周年を迎える東京駅との豪華コラボレーションにより、クリスマス間近のロンドンを舞台にしたラブストーリーの名作「ラブ・アクチュアリー」の“東京版”ともいえる映画を目指したのが本作「すべては君に逢えたから」だ。世代も境遇も異なる10人の男女が織りなす6つの色とりどりのエピソードのなか、“出会い”をテーマにしたエピソード“イヴの恋人”で主演を務めた玉木宏と高梨臨が、作品の見どころや魅力を語った。(取材・文:山崎佐保子/写真:江藤海彦)
過去の苦い経験から、自分に近づいてくる女性はみんな金目当てだと思っているウェブデザイン会社の社長・黒山和樹。舞台女優を目指して高知から上京するも、鳴かず飛ばずのまま故郷に帰る決意を固めた劇団員・佐々木玲子。そんな別世界に暮らす2人が、奇跡ともとれる最悪の出会いを果たす。
仕事熱心のあまり部下にきつくあたる和樹は、ファーストシーンから最悪の印象を与える。玉木によれば、それは割り当てられたエピソードの尺やバランスを保つための秘策だった。「変化球みたいにちょっと遠回しにやってしまうと、すぐにそのシーンは終わってしまうんです。強く印象に残していかないと『この人、何だっけ?』となってしまう。ですから、怒っているシーンなら登場の段階から僕は怒っているようにしようと意識していました。そうやって自分でバックボーンをきちんと感じて演じないと、薄っぺらな役になってしまうなと。だから一番ベースにしたことは、感情を誇張すること。前半戦はすごく嫌なやつで、彼の不器用さゆえ会社は成功しているけど、仕事に熱中するあまりの人付き合いの下手さを出す。部下をうまく使えなかったり、相談する人がいなかったりする寂しさ。それが玲子に出会うことによってガラっと変わる。前半と後半の印象が対極にあっていいなと思ったんです。だから前半は、『この人、かわいそうだな』って思えるくらいでよかった」と戦略を明かす。
そんな和樹と相反する天真爛漫な玲子を軽やかに演じた高梨は、「田舎から出てきた役なので、衣装も素朴だし、私自身も素朴な感じは出したいなと思っていました。展開が急ということもあるけれど、2人の出会いがコメディチックに撮られていることは、試写で完成した映画を見て初めて知りました。演じている時は全然雰囲気も違って、コメディテイストというのは想像していなかったことなので、それはそれで面白かったですね」と意外な発見もあった。
少女の無垢な思い、20代の若さあふれる恋愛、中年夫婦の葛とう。バラエティに富んだストーリーの数々が、幅広い層の共感を誘う。玉木は、「東京駅って本当にたくさんの人々が利用する場所。だから、映画のストーリーにもある、色々な出会いや物語は実際あるだろうなと理解できる。この作品自体、大切な人のことを改めて素直に考える、ということが最大のテーマ。どの世代の方が見ても、改めて考えることで恋人や家族に優しくなれたりする。その大事さが伝わったらうれしいですね」。高梨も、「私は1人で見たけれど、1人で見ても心温まる映画でした。家族や友だちなど大切な人と見るのもいいし、悩んだり楽しんだり、どんな心境でも温かい気持ちにさせてくれる作品に仕上がりました」。
玉木と高梨が演じたエピソードは、クリスマスの奇跡がもたらす“出会い”の物語だが、その他に“別れ”もあれば“旅立ち”もある。玉木は、木村文乃と東出昌大が共演するエピソード“遠距離恋愛”が印象的だったそうで、「木村さんが、恋人の東出くんが暮らす宮城のゆるきゃら“むすび丸”を一生懸命大事に抱えて眠るんだけど、朝起きたら全然違うところにあって(笑)。ちょっと突っ込みたくなったけど、役柄的にすごくリアリティを感じた」と細かいディテールまで見逃さない。高梨は、時任三郎と大塚寧々が夫婦役を演じた親子のエピソード“二分の一成人式”がお気に入りだそうで、「親子の話が好きでした。私たちはラブストーリーを撮っていたけれど、完成版を見て家族愛のエピソードもあるんだなって。作品の深さや幅が広がっていたと思います」。
本作は、クリスマスを間近に控えたイルミネーションきらびやかな東京が舞台。2人にもロマンティックなクリスマスの思い出を聞いてみた。「イルミネーションがキレイだなとは思うけど、あまりクリスマスの思い出がない……」と首をひねった玉木だが、「小学校4年生の時、月のお小遣いが500円だったんですが、その年にファーストフード店でフライドチキンが発売になって、2カ月分のお小遣いを握りしめて家族4人分のチキンを買いに行ったことは今でも記憶に残っていますね」と心温まるエピソードを披露。一方の高梨は、「私は誕生日が12月17日なので、いつもケーキもプレゼントも一緒にされて……」としょんぼり。すると玉木も、「僕も誕生日が1月半ばなので、クリスマス、正月、誕生日とまとめられた(笑)」と意外なところで意気投合し、笑い合っていた。