「今度こそアカデミー主演男優賞を!」ウルフ・オブ・ウォールストリート DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
今度こそアカデミー主演男優賞を!
3時間の長い映画だ。
21秒に一度「FUCK」というマスコミでは使用禁止の粗暴な言語が出てくる。その数、506回。「GET FUCKING PHONE!」受話器を取って株を売って、売って売りまくれ、というわけだ。ディカプリオが、女の肛門のまわりにコカイン粉を振りまいて、ストローでそれを鼻から吸引するシーンで、映画が始まる。禁止言葉の羅列、ドラッグ、ヌードと暴力シーンが多いために、18歳以上でないと観られない。ドラッグはコカイン、マリファナ、アイスにエクスタシー、、と何でも出てくるし、女の全裸姿も嫌というほど出てくる。
粗悪株を 口八丁の巧みなセールスで、小市民に売りつけて老後のたくわえを情け容赦なく取り上げる。名もない会社の株を強引に売りつけて得た金をスイス銀行でマネーロンダリングする。250人の証券会社の社員に株の不正取引を伝授して、売上が達成できると、職場では40人の娼婦やストリッパーや楽隊やアルコールやドラッグが待っている。オフィスで馬鹿騒ぎの末、小人症の人を目標達成ボードに体当たりさせて面白がる。デスクに金魚鉢を置いているような軟弱社員から、取り上げた金魚を全員の前で副社長が呑み込んで見せる。会社を酷評した書類には皆の前でジッパー下げて、小便をかけて馬鹿にして見せる。お金が欲しい女性社員を社員全員の前でバリカンで髪を剃って大はしゃぎする。250人の証券マンが仕事中でも楽しめるように、娼婦達を職場において、机の下でもエレベーターの中でも、ジッパーを開けさせる。何でもありだ。
公然と弱い者いじめをし、障害者を笑いものにして、公共の場で平気でドラッグを吸引し、女性を性奴隷としか扱わない。人としてのモラルをすべて全否定してくれて、獣よりも下劣な男の欲をこれでもか、これでもか、と見せてくれる。いやー、、、悪酔いしそうでした。
監督のマーチン スコセッシはニューヨークのイタリア移民の街、リトルイタリーで生まれ、父親はシチリアからの移民一世、母親も移民の2世、子供の時からマフィアの本拠、シチリアの文化の中で育った。彼の作風は「徹底して見せる」ところだ。暴力シーンは徹底的に暴力的に撮る。情け容赦ない。彼の代表作「タクシードライバー」(1972年)、ボクシングファイターを描いた「レイジングブルー」(1980年)、イタリアマフィアの世界を描いた「グッド フェローズ」(1990年)を見ればその暴力の徹底ぶりがわかる。「ギャング オブ ニューヨーク」(2002年)など、アイルランド移民たちの手造りのナイフやナタで殺し合う血しぶきが飛び肉がちぎれるシーンなど、暴力描写が徹底している。
そして、今回の「ウルフ オブ ウォールストリート」では、無一文の男が事業に成功するとどれだけ馬鹿ができるかを徹底して描いてくれた。モデルだった美しい妻を持ち、子供たちに高い教育を受けさせ、家をいくつも買い、別荘、運転手付きのロールスロイス、自家用飛行機、船、とエスカレートしていき、ドラッグとアルコールをあびるように飲み、女遊びする。きりがない。ヌーボーリッチ、成り上がり者の俗物極致、金銭至上主義で、下衆の三流趣味。消費することが快楽でたまらない、消費中毒。人としての品性も、道徳も品格も、叡智もない。人格の尊厳も、上向志向さえない。でも、これがアメリカ人であり、アメリカの消費文化のなれの果てなのかもしれない。そういった男をスコセッシが徹底して描いた。
そんな男を演じたのは、ディカプリオ。「僕がこれだけのお金を手にしていたら環境保全のために使いたいよ。」と、のたまう、しごく真面目な役者だ。炭酸ガスを出さないバッテリー電池の自動車ハイブリッドが発売されたら、すぐに手に入れて売上宣伝に力を貸し、自然破壊を食い止めるための映画を自費制作した。この映画、アル ゴウ元副大統領の作った「不都合の真実」の影になって、あまりヒットしなかったが、カナダの環境保護活動家、デビッド鈴木博士のインタビューなどを含めた とても優れたドキュメンタリー映画だった。
環境保護活動家は、アメリカでは大企業から嫌われるから、スポンサーがつかない。ディカプリオは日本では人気があるが、アメリカでは実力に反して評価されずにきた、不遇の役者だ。映画史上最高の興行成績をあげた「タイタニック」を主演したにもかかわらず、相手役の女優ケイト ウィンスレットがアカデミー主演女優賞を取り、映画作品賞など、その年のアカデミー賞を総なめしたが、なぜか主演の彼だけが、何の賞も与えられなかった。「アビエーター」でも 相手役のケイト ブランシェットがアカデミー女優賞をとり、主演のディカプリオには、何も与えられず、また、昨年の「華麗なるギャッピー」でも、作品は受賞したが 主演の彼は、賞の候補にさえ挙がらなかった。ハリウッドでは、わざと彼だけを避けているのかと思えるほど、ディカプリオは、賞に関しては不運だった。今回のこの映画で、彼は初めてアカデミー主演男優賞の候補にされた。是非、受賞してもらいたい。「熱演」、というか、「怪演」している。
この原作を映画化する権利を、ディカプリオは、ブラッド ピットとの入札で競り合って獲得したそうだ。主役に求められる、「無教養で、節操のない上えげつない男」を、ディカプリオがやっても、ブラッド ピットがやっても、あきれるほどうまく演じたことだろう。
マーチン スコセッシは、この映画の前に、「デパーテッド」、「アビエーター」、「ギャング オブ ニューヨーク」、「シャッター アイランド」の4作で、ディカプリオを主役に使っている。よくできたコンビだ。中では、「シャッターアイランド」が一番好き。夢か現実か、わからない狂気の世界を彷徨うディカプリオがとても良かった。
スコセッシ監督の作品ではないが、「キャッチミー イフ ユーキャン」(2001年)という映画がある。高校生のくせに、ツイードのジャケットなど着て、先生に間違われれば、そのまま教壇で滔々と授業をやる。口がたつ天然の詐欺師だ。
今回の映画でも250人の社員を前に、演説を始めると熱が上がってきて、アジりまくる。彼のアジテーションに 社員全員が総立ちになり熱狂する。そんな役がとても 彼にはよく似合う。FBIが動き出したのを機に勧められて、社長業の引退を決意して、社員たちを前に涙ながら最後のあいさつをしていたのに、話し始めると止まらない。社員を叱咤激励するうちに、そうだ、引退なんか、くそくらえ。僕はこれからも仕事にばく進して、稼いで稼ぎまくるぞ ということになってしまって社員たちを熱狂の渦に巻き込んでしまう。このシーンが映画のクライマックスだろう。
金、女、ドラッグに固執する執念が、この男を駆り立てる。この役を演じたくて、版権を自分で買い映画化するのを待ち望んでいたディカプリオの執念が達成された。アカデミー賞受賞の価値はある。