「ペンを売れる人間か、そうでないか 頭脳が猛獣であるか否かなのです」ウルフ・オブ・ウォールストリート あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
ペンを売れる人間か、そうでないか 頭脳が猛獣であるか否かなのです
ものすごい作品です
好きか?と問われると、そうではありません
人に勧めるか?というと、それもないでしょう
だけども、傑作なのは間違いないのです
やはり星5つつけるしかないのです
実話です
ほぼ原作どおり
和訳もでています
「ウォール街狂乱日記 - 「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生 」がそれです
しかしそこはスコセッシ監督
コメディ風味にかつかなり毒のある風刺になる撮り方をしています
3時間も有りますが全く苦痛ではありません
もの凄い腕前、実力だと感嘆します
同じ原作を他の誰が撮って本作のような高いレベルで映画として完結できるでしょうか?
しかも最後の締めくくり方の見事さ!
FBI捜査官デナムは、中盤でベルフォートとの豪華クルーザーの甲板での面会の際に予言されたことを思い出しています
ベルフォートから暗に買収されそれを一蹴した時の予言です
地下鉄でみじめな女房の待つ家に帰れ
彼は薄汚れた地下鉄の中で一日の労働で疲れ果てた顔の貧乏人達を眺めています
新聞の一面を飾る全米が知る大手柄をたてても、たぶん3日間同じ汗臭いスーツを着ている彼は多少は出世しても、これからも同じ貧乏人のままなのです
そして周りを見渡したあと、今になってあの時話に乗っていたら、もし株屋になっていたらと考え込んだような微妙な表情を、監督は彼にさせるのです
そう言えば買収話を蹴る前彼は一瞬ベルフォートの背後に立つ同僚をみていたのです
見事な演出でした
そして刑務所シーンを挟んでそれにつづく対比のシーンが秀逸です!
出所後の彼は世界を飛び回って投資セミナーを開いています
ニュージーランドはオークランドの豪華ホテルの会場のようですから、会費は数万円以上は取っているものでしょう
アホ面をしたカモが何十人もネギをしょって座っています
それをラストシーンにしています
それは私達観客のすがたです
狼に喰われるウサギの姿です
ジャングルは猛獣だらけ
冒頭に言っていたではありませんか
ところで、有名なペンを売らせるシーン
序盤とラストに登場します
ペンを売れる人間か、そうでないか
頭脳が猛獣であるか否かなのです
同様のシーンが、実は日本映画にも有ります
1994年公開の「男はつらいよ 拝啓車寅次郎様」です
寅さんが満男に鉛筆を売ってみなという有名シーンです
もちろんこのあと寅さんが見事な売り口上を披露するのです
寅さんファンならよくご存知のはず
本作は2013年の公開です
原作は2007年出版、和訳は2008年出版
だから寅さんの方が原作よりも13年も先です
スコセッシなら寅さんまで観ている可能性もなきにしもあらずですが、原作にしても関係ないでしょう
ペンを売るなんてのは、ドラッガーのエスキモーに冷蔵庫を売るのと同じくらい昔から有名なタームなのですから
でも寅さんは猛獣ではありません
それが日本人なのです