「どこまでも貪欲で下品。だからこそ共感できて、熱中できる作品。」ウルフ・オブ・ウォールストリート すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
どこまでも貪欲で下品。だからこそ共感できて、熱中できる作品。
○作品全体
映画作品に出てくる登場人物はラブロマンスだったり戦場を生き抜きたいという生の根源であったり、その人物だけのロマンを追い求めたり、主義主張を世へ広めたり…情熱を注ぐものが無限大にあるわけだが、その人物すべての価値観を共有できる作品に出会えるのは相当難しかったりする。「こうありたい」と思える価値観に出会うことは幾度もあるけど、それを自己に落とし込めるかというと正直重苦しかったりするのが本音なところだ。
ただ、この『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は違う。主人公・ベルフォートやベルフォートの経営するストラットン・オークモント社に勤める人々が抱く「金と快楽」への執着は、綺麗事抜きに書いてしまうと自分が一番共感できるポイントだった。そして3時間にも及ぶ本作においてどのシーンも最終的に行き着くところは「金と快楽」。シンプルだからこそ、登場人物を嘲笑しながらもその行動に羨望の眼差しを向けたくなってしまうし、まったく飽きが来ない。
実際にここまで突き抜けた欲望への執着を今の自分が持ってはいない…というか、妥協をして生きているけれど、序盤のダニーのようにキッカケさえもらってしまえば金とセックスと酒に溺れてしまうだろうなあと思うし、そうできるなら多分今すぐにでもそうする(機会を待ってるだけだから妥協してるわけだけど)。
「こうありたい」と思える映画作品を見続けるのも楽しいのだけれど、数十本に1回くらいの間隔で「こうだったら最高だな」と煩悩のまま思える本作品を見ると、正直脳が痺れる。悲しくも自分の快楽とかなりの割合で合致してしまうこの作品は、自分の中で大切にしたい作品の一つだ。あまり大きな声では言えないけれど。
○カメラワークとか
・1カットごとの時間が後半になるにつれ長くなる。特にベルフォートが逮捕されてからが顕著だ。楽しい時間はあっという間…という表現でもあるだろうし、逆に辛い時間の長さ、という表現でもある。特にナオミとの最後のセックスシーンは、長回しの痛々しさが印象深い。それまでの小気味良い、快活なハシャギっぷりとのギャップも相まって異様なセックスシーンだった。
・カメラアングルは基本なめ構図で、あとは人物のフォローカット。だからこそ横位置のカットや主観カットが輝く。横位置カットはジョーダンがベルフォートと会議室で話すカット。ベルフォートにそのうち報いが来るぞ、と言われるところを二人の横位置で撮るわけだが、その不穏さの表現が巧い。
・セミナーのCMを撮るジョーダン、FBIにカメラを倒されて傾いたカメラ。逮捕されたジョーダンが画面下方向へ向かって歩いていく…この演出が面白かった。
○その他
・ジョーダンが退任演説でキミーの話をするところ、めちゃくちゃ悔しいけど泣きそうになる。ジョーダンの「君を信じたからだ」っていうセリフと、キミーの声にならない「ありがとう」の芝居が上手い。
・下品と卑猥が細部にまであるのがこの作品の好きなところだ。ゴルフ場でキャビンの胸をさらっと揉んで歩いていくジョーダンとか。もちろん物語にまったく意味はないんだけど、欲望のままに闊歩してる感じが、セックス映してるときよりも如実に出てる気がするんだよなあ。