「印象的な出会い描く導入部の鮮やかさ。「冬冬の夏休み」につながる要素も認められる侯孝賢監督第2作」風が踊る 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
印象的な出会い描く導入部の鮮やかさ。「冬冬の夏休み」につながる要素も認められる侯孝賢監督第2作
CM撮影のため映像班と共に島を訪れていた女性写真家のシンホエは、ハーモニカで憂いを帯びた旋律を奏でる青年に目を留め、何度もシャッターを切る。この青年チンタイはある事情を抱えているが、それを知らないシンホエは彼の視線が自分に向いていると思い意識してしまう。やがてその事情を知らされたシンホエ(と観客)は「そういうことか!」と合点がいく。
実は撮影班の監督ローザイはシンホエの恋人でもあるのだが、淡くもどかしい三角関係が始まる予感を、この導入部は鮮やかに描き出している。幸運にも予備知識なしで鑑賞できた人は導入部のサプライズを新鮮に受け止められるが、残念ながらチンタイの“事情”は当サイトなどの作品解説や予告編の中で明示されているので、あらかじめ知ってから観ると驚きも半減してしまうだろう。作品の紹介や宣伝で筋をどこまで明かすのかは、常に悩ましい問題だ。
侯孝賢監督がデビュー作「ステキな彼女」に続き1981年に撮ったアイドル映画(主要キャスト3人は台湾と香港の人気歌手)。現代の感覚からすると恋愛模様がずいぶんのんびりしていて曖昧にも思われるが、その分爽やかで微笑ましくもある。子供たちの遊びやいたずらといった日常が活写されている点は、初期代表作「冬冬の夏休み」(84年)につながる要素だ。街並みや住居の作りなどに日本統治時代の名残りがある点も、この頃の台湾映画に日本の観客が郷愁をそそられる一因になっている。
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