「近年の大作にあまり期待できないからこそ楽しめ、大作の底力を見せ付けてくれる作品です。」スター・ウォーズ フォースの覚醒 kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
近年の大作にあまり期待できないからこそ楽しめ、大作の底力を見せ付けてくれる作品です。
2016年元日の夕方にTOHOシネマズ六本木ヒルズのスクリーン1にて3D版を鑑賞。
三度の飯より、映画好きな自分にとって『スター・ウォーズ』は愛してやまない作品の一つで、“旧三部作”、“新三部作”、『クローン・ウォーズ』は勿論、“劇場初公開版”や“特別篇”以降の“修正版”まで、全てに愛着があり、劇場では“新三部作”しか観ていないので、思い入れの強さは、そちらの方が大きいですが、ルーカス監督が、このシリーズで行ったことは、何でも認められたのですが、本作『フォースの覚醒』に関しては、製作が明らかになった時から、何の期待も出来ず、ルーカスが権利を手放し、ルーカスフィルムと共にディズニーの傘下になった事も納得のいかない気持ちで、駄作を覚悟して観てきました。
銀河大戦が終結してから、30年が経過し、銀河共和国は新共和国として復活を遂げ、同時に銀河帝国軍の残党たちを中心とした“ファースト・オーダー”が台頭し、銀河の新たな脅威になりはじめていた。ファースト・オーダーに対抗するレジスタンスに所属するパイロットのポー(オスカー・アイザック)は砂漠の惑星ジャクーでの任務中にオーダーの特殊部隊の捕虜となり、尋問にかけられてしまう。一方、ポーの相棒で間一髪、オーダーから逃れたドロイドの“BB-8”は重要なデータを持って砂漠を逃げ回っていた時に、その地で廃品回収をしていた女性レイ(デイジー・リドリー)と出会う(粗筋は、ここまで)
期待度の低さが嘘のように楽しめました。私は『シスの復讐(エピソード3)』を最後に大作を観る回数が減り、たまに観ることがあっても、この十年半の間に心に残った大作は『トロン・レガシー』と『ターミネーター:新起動/ジェニシス』ぐらいで、面白いのはそんなに無く、大半がつまらなく、大作に期待する事が出来なくなり、それによって、『スター・ウォーズ』の復活にも喜べなかったのは大きかったと思います。しかし、本編が始まってからは、そんな事が無かったかのように夢中になり、自分の好きな大作と『スター・ウォーズ』が帰ってきたのを実感しました。
近年の大作は登場人物が自らの口で設定を説明したり、起源を描いて観客を納得させる作りが多く、それが当たり前になりすぎて、必要最低限の情報のみを与えて、観る側に先の展開を予想させたり、明らかになっていない部分を考えさせる事をしなくなり、想像力を働かせる事が出来なくなっていると思うのですが、本作でエイブラムス監督は、シリーズを復活させる事に伴い、そのやり方を取り入れ、レイやフィン(ジョン・ボイエガ)に関する事、ルーク(マーク・ハミル)を含むジェダイの事柄を描かないで、謎を残しすぎて終わらせたのは、観客の想像に委ねて、次回作を楽しみにさせるという配慮だったのではないでしょうか。ただ、自分が思うに、本作は過去作の設定の大部分を引き継いでいるので、それらを踏まえて観ることで、その答えも見えるような気がし、レイが何でも出来るキャラに描かれているのは、幼い頃からの経験で今に目を向け、生けるフォースを体得(それに某人物からの隔世遺伝も。あくまで、予想ですが。もし、彼女の父親があの人ならば、それもあるのでは)していたからかもしれず、カイロ・レン(アダム・ドライヴァー)が未熟な悪党なのは、ダース・ヴェイダーへの憧れという漠然とした未来を夢見ていて、現実に地に足を着けて生きていない事への表れなのかもしれません。
映像に真新しさが少なかった(モーション・キャプチャーがやり過ぎじゃなかったのは好印象)のは間違いありませんが、“旧三部作”の続きの話なので、これで良かったと思います。もし、“新三部作”の世界観で話を始めていたとしたら、映像的に斬新さがあっても、話は“新三部作”以上に無理が出ていたかもしれず、 ルーク、ハン(ハリソン・フォード)、レイア(キャリー・フィッシャー)といった“旧三部作”のキャラを持ってきても、違和感だらけだった筈で、本作ほど世界観や話が魅力的になるとは思えません。だから、ジャクーやタコダナといった辺境の惑星が舞台にしたのは正解で、タトゥイーンやエンドアと類似な星に見えるのは、恐らく、チュニジアの政情不安の影響やアメリカ国内での撮影によっては、情報流出が起こりやすくなるのを防ぐための事で、ジャクーの設定も、銀河系のなかでは独自のルールを持つタトゥイーンでは起こらないと思われる、かつて“戦場となった”という違いがあり、タコダナも多種多様なエイリアン種族が集う酒場があるという変化をつけているので、悪いものではなかったと思います。
“新三部作”の魅力の一つだった剣術のアクションは地味になっていますが、“旧三部作”と“新三部作”の間をとった構成で、私としては酷くは見えず、予告などで、このアクションに関するショットを見せないようにしていた影響かどうかは分かりませんが、『スター・ウォーズ』らしさに溢れ、とても良い印象を持ちました。フィンがライトセーバーを使えるのはツッコミどころですが、ツッコミどころもシリーズの魅力で、フィンは乗っていたタイ・ファイターが墜落しても無傷なので、反射神経に優れていたから、ライトセーバーも使えた(使えたといっても、不器用な使い方で、グリーヴァス将軍のような器用な使い方をしていないのが良い)と思うことにしておきます。
このシリーズは変則的な構成なので、“旧三部作”の続きでも、『ジェダイの帰還』から30年が経過している関係で、いきなり新しい話を始めるのはルーカスじゃなければ無理な筈で、“旧三部作”の焼き直しの要素が多かったのは、もう一度、やっておかなければ、あの世界観を浸透させる事が出来なかったという判断なのでしょう。ファンにとっては“お復習”、新規の観客には「今回の世界はこうで」という説明を兼ねた作りは非常に気に入っております。この十年半、『スター・ウォーズ』の不在の淋しさを見事に帳消しにし、映像重視の大作にウンザリしていた自分にとっては、久々に大作の底力を見せてくれた作品として、高く評価する一作です。手に汗握る、ワクワク出来る、背筋が震え上がる興奮を大作で味わいたい方にお薦めです。