「カネと性と暴力に翻弄されてしまう」東京難民 Takehiroさんの映画レビュー(感想・評価)
カネと性と暴力に翻弄されてしまう
『東京難民』(2014)
Amazonプライムにて。お金を持っているというレールから外れるとどうなっていくのかという問題作。主人公の大学生(中村蒼)に内容証明の封筒が届き、サインしただけで起きっぱなしにしていた。大学の教室に入るためのカード認証が効かず、教務課に行くと、除籍になったという。父親がパブの女と出奔したのか、仕送りがすべて途絶え、住居からも追い出され、アルバイトでも追い付かず、ネットカフェに泊まることになる。『ネットカフェ難民』になった。パチンコに失敗し、古着屋に出しても安くしかならず、0円で置いてある職業探し雑誌をベンチでみる。スマホの電源が切れる。
座ってカップ麺をすすりながらデパートの隅で充電すると警備員に制止され、別のネットカフェに泊まる。そこで職探しをする。行ったのはブラックバイト気味。ここまで非情な事が現実にも続いてしまうのかというくらい連発される。バイトの怪しい先輩が、ネットカフェに泊まっている人はまだ良いほうで、24時間営業のカフェで150円のハンバーガーで泊まって粘っている人達がいるという
。次に治験バイトというのに移る。三食付きでベッドで休憩時間は寝ることが出来て、日給2万円。
俺にもツキがやってきたと楽観してしまう主人公だが、テレビでネットカフェ難民の特集をみて、本人が取材されて出ていたのを観てしまい、何言ってんだよとテレビを消す。大学生時代の軽く授業を昼寝したり、パチンコでも大儲けになったり、合コンしていた頃の思い出がよみがえる。治験バイトが終了し、給料をもらうとにっこりする。今日だけはうまいものを食べようと歩いていると、警官が2人やってきて、どんどん誤解していき、警察署に連れていかれる。警察官が悪役として出てくる。そこで頭に来ていたところ、女が現れて飲みに行こうとバーに行く。何か所も連れていかれて、その都度主人公が支払う。オンナのサクラにぼったくられてしまうという展開なのか。それとも、ホストクラブに連れていかれたため、ホストになってしまうのか。どこまで警戒感がなく失敗してしまう男なのか。お会計が、実に268000円。オンナは男にたかって飲み代たかっているという人物。
治験バイトの全部がとられて、赤字1万円。ぼったくられた。土下座して勤めさせてくれと頼むと、
怪しいマネージャーが試してみるかと言ってくれる。だが怪しい。最初に渋っていた先輩たちの部屋に行く。ホスト初日。飲まされて便所で吐く。店の売り上げ100万円の酒だったという。でも自分たちの売り上げにはならないという。それでも少し情けのあるホストの先輩役に、中尾明慶。他にもナースがホストクラブに来ると、主人公はお金を使わせないように気を使うが、怪しいマネージャーに言われて、ソープ嬢にしてやってもいいから稼げという。清純そうなナースが転落させられていくような、不気味な展開である。演じた大塚千弘の演技が悲しい予感である。だがナースも主人公に入れあげていたのだろう、積極的にホテルに誘い、ベッドに誘い、主人公の上にのって性行為をする。そして、先輩の女の借金をナースに頼み、100万円を得たりする。浮かない顔の主人公ではあるが。ナースも貞淑な女でもなく、困った状況だった。何シーンかのセックスシーンが出てきて、ナースの女も悪女化していく。マネージャーはナースを風俗嬢に落とし込むまで金を払わせる意図である。悩む主人公。中尾明慶演じた男は100万円を盗んで消えて、それらのきっかけになった山本美月演じるたかる女は、怪しい怖いマネージャーに見つかり、青柳翔演ずる先輩ホストと主人公と共に、200万で風俗嬢に売られることになる。どこまでもカネと女と汚い絶望的な転落が描かれ続ける。だがこの3人で逃げる計画を立てる。この逃走で3人で笑うシーンが汚く怖い世界の中の清涼剤の感じもした。だが、追手が迫ってくるのが予感される。ナースとの関係はどうなったのかともふと考えたりする。ホストを抜けた主人公と先輩ホストは建設業者に入る。ここでも、紹介した先輩ホストの先輩も抜け出してしまったという。この二人の仲介料をもとに辞めてしまったのだ。仕事は重労働で厳しく、だが土工の中年の先輩たちが優しかった。主人公は、「生きるために必要なものってなんなんですかね」とつぶやく。ナースに久しぶりに会うと、100万円はきキャッシングだった。お金返してよ。怒られて、ナースの前で雨の中、主人公は土下座する。無言で背を向けるナース。先輩ホストは田舎に帰ろうとする矢先に、怖いマネージャーに見つかってしまう。この悪役が金子ノブアキ。叫ぶ元ホストの先輩。主人公は先輩元ホストを許してくれとホストクラブに戻る。中尾明慶の役も連れ戻され、廃人のようになってしまった。これでは完全に犯罪者なのだが、怖いマネージャーは、どうせもう身体が助からない男だ。アル中から頭と肝臓をやられている。保険金を中尾の役にかけたから、暗殺しとけと命じる。だが、元ホストの先輩は人間性を失わずに逆らう。と思ったら、殺してしまう。と思ったら、出来なかった。ここまで部下が人間らしさがあるのに、ひどい悪役のマネージャー。まさに上が悪いと全体が狂って来る。元先輩は外国でヤクの運び屋をして金を作ることで許されるが、主人公は、マネージャーに殴られて蹴られるが、外国に行ってもなにか危険らしいセリフを言い、ガキが首つっこんでんじゃねえよ。と言われる。どこまで怖いネットワークなんだろうか。(後で思うと、怖いマネージャーが、主人公は元ホストの先輩と一緒にさせなかったのは、主人公のためにも思いやりだったのかも知れず、複雑な心情だ)だが、雨の中、最初のシーンが戻るのだが、部下たちが、川に投げ込みますかというと、マネージャーが「こいつはもう終わっている、ほうっておけ」と言われて、半殺しにされて足を洗うようなことになる。ナースに続き、元ホストの先輩もどうなるのか。主人公は殴られて記憶喪失になってしまったらしい。ホームレスのような人達に助けられる。ホームレスのような人達と缶拾いの仕事をする。自転車でいっぱいの缶を運んで潰す。道端で雑誌を売る。随分長い時間が過ぎたように思っていたが、大学除籍からこれまでたった半年なのだという。記憶喪失になってまで、ホームレスの人達と夜中に食べ物を囲んで笑うのがある意味強いのだが、記憶喪失だと思っていたら、販売中の雑誌に写真で載っている、あのナースがソープ嬢になっていたのを忘れてはいなかった。ナースも結局キャッシングで転落していた。男女のいびつな愛が主人公が中村蒼でヒロインが大塚千弘だった。井上順演ずるホームレスの助けてくれた人に対して、「俺は半年前までは大学生でした。もう俺は終わってるです」と言う。ホームレスは「終わっているなんて言ったら産んでくれた親に申し訳ないよと言う。そしてホームレスのおじさんに、ここ半年で出会った人達の事を話す。彼や彼女たちは、怖いマネージャーまで含めて、初めて出来た友達でしたという。だけど何もみんなにしてやれることが出来ず、力がないのだと語る。フリーセックスや女の風俗嬢への転落(個人的に衝撃的だったのは、こういうこともあるのかという最初だったからだろう、『ナニワ金融道』でそんな話があった。テレビドラマでは、篠原涼子が借金が返せなくなりソープ嬢になる役をしたのではなかったか)など、性倫理的にも描写にしても良くはないのだが、底辺に転落しても、一人の若者が何かを感じるという内容や、底辺にも優しい人がいるということや、癖のある人達も複雑に善悪絡ませているとか。そして男女のモチーフに帰る。この関係も複雑だ。ホストの同伴でセックスしていたナースが、今度は「お金持ってるの?」と主人公に聞き、お金を見せると、「じゃあ、お客さんだ」という風俗嬢の女。あなたもあの場所もお金で得ただけだったと語る女。馬鹿にしないで、とお金を主人公に投げつける女。すすり泣いている。「馬鹿になんかしてません。謝りきれないけど、自分が生きてるって茜(風俗嬢)や純也(元ホストの先輩)たちとのかかわりで生きているんだって。今、駅前で拾った雑誌売ってるホームレスやってます。もう自分は終わっているから、虫みたいに生きようと思ったんです。でもそれは逃げているだけでした。みんなが必死に生きようとしているのに、自分だけ逃げようとしていたんです。本当にごめんなさい」女の手に札を握らせて、少しずつでもお金返しますから。だから、生きていてもいいですか。」女は泣いていたが、主人公の時枝修に返して、笑顔みせて、「修。今の私のためにシャンパンコールやって」と風俗嬢とホームレスになった二人は、当時のナースの客とホストになって、主人公は泣きながら棒読みで一気飲みのコールをする。女が言う。「私も修もまだ終わったわけじゃないから」、修はコールを続ける。この抱き合う姿は性行為よりも精神的な結びつきだっただろうか。個人的にはこの男女は復縁ではないが、別れずにいて欲しいと思ってさえしまっていた。好き同士ではあったのに。甘いのだろうか。そして、ホームレスとの生活に戻り、修は、親父を探してみようと思うとホームレスの先輩に語る。井上順演ずるホームレスの先輩の息子は震災で死んでいた。ホームレスから旅立つというと、ホームレスの先輩おじさんは、100円玉を選別だとして渡す。深く小屋にお辞儀をして、吉田拓郎の「落陽」のような感じもしたが、100円をみて少し投げ上げて受けて歩き出す。企業社会のような、お金が比較的安定的に供給されるレールから脱線すると、複雑な難儀な世界に入ってしまうのか。だがそれぞれ強いと言えば強かった。最後の主題歌が高橋優の「旅人」で、監督は佐々部清だった。