劇場公開日 1943年10月28日

「1943年版を観ずして「無法松の一生」は語れません」無法松の一生(1943) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.01943年版を観ずして「無法松の一生」は語れません

2023年4月26日
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鑑賞方法:VOD

1943年公開
もともとは1938年の小説が原作

主演は阪東妻三郎
もちろん白黒作品
しかし撮影はあの宮沢一夫が撮っただけにあ素晴らしい映画的快感がある映像が詰まっています
彼が大映京都撮影所に移って最初の作品だけに気合いが入っていたのかも知れません
冒頭の人力車を見上る構図で消失点に走り去る映像でいきなりやられてしまいます
稲垣浩監督とは日活京都時代から何作も撮ってきているコンビですから息のあった撮影です

稲垣浩監督の演出もテンポよく、まどろむことはまったくありません

まさしく日本映画のオールタイムベストの上位を占めて当然の作品です
絶対に観ておくべき作品です

それなのに、なぜなのか21世紀になっても未だに本作の1943年版の鑑賞は大変困難なのです

リメイクは3回
1958年版
稲垣浩監督のセルフリメイク
主演、三船敏郎

1963年版
監督、村山新治
主演、三國連太郎

1965年版
監督、三隅研次
主演、勝新太郎

テレビドラマでも4度、舞台は数知れず
宝塚でも上演されたそうですから恐れいります

つまり本作がそれほどの素晴らしい作品であるという証明です

なのになぜ稲垣浩監督が1958年版のセルフリメイクを撮ったのでしょうか?

それは1943年版が戦中は当局によって、戦後は占領軍によって2度も検閲をうけカットされたからです
その悔しさが監督に完全版をカラーで撮り直したいと思わせたのでしょう

しかしハッキリいって1943年版がベストです
今日鑑賞できる1943年版が検閲後のものなのかも知れませんが、21世紀の私たちには一体どこが問題になったのかサッパリ分かりません

1958年版と比較して推測するならば問題になったのは、戦中の軍部からは陸軍大尉未亡人との淡い思慕のシーン
占領軍から問題視されたのは、日露戦争の祝勝会、第一次大戦での青島占領祝賀の提灯行列のシーンが問題とされたのだと思います

それらが自分の観た1943年版と1958年版との大きな違いだからです

しかしそれがどうしてもなくてはならないシーンかというとそうでもないと思います
恐らく二度の検閲後のものであろう1943年版でも十分に感動できるし、1958年よりも大いに勝るからです

細かい演出の冴えも、何もかも1943年版が上回っています
大スター三船敏郎であっても、本作の坂東妻三郎の無法松の方が遥かに役にはまっています
第一、クライマックスの祇園太鼓のシーンの盛り上がりは1958年版は不発していて、1943年版とは比べものになりません

つまり1943年版を観ずして「無法松の一生」は語れないというのが結論です

蛇足
「無法松の一生」は村田英雄とかの歌謡ショーでも大人気の演目です
特に彼の大ヒット曲「無法松の一生(度胸千両入り)」は超有名で、無数の演歌歌手にカバーされています

♪小倉生まれで 玄海育ち
口も荒いが 気も荒い~

21世紀生まれでも、あ!知ってる!という人がいるほどの有名曲です
この曲は1958年7月発売ですが、1958年版の映画の主題歌でもなく、同年4月公開の映画に触発されて別に発売された楽曲のようです
当初は大してヒットもしなかったのですが、4年後の1961年に彼の最大のヒット曲「王将」が出ると、それに引き摺られてこの曲まで1962年にヒットしたということだそうです

恐らく1963年版、1965年版の映画やその他のリメイク作品などは、みんなこの曲の大ヒットによるものだと思います

でもすべての始まりはこの1943年版だと思います

本作を観たあと是非お聴きください
YouTubeで簡単に聴けます
本作を観た感激があらたになります

あき240
トミーさんのコメント
2023年6月1日

やっぱりラストの「松五郎さん・・・ううう」はオリジナル版で観たかったです。

トミー