「韓国映画が従来の枠組みを超えて世界に羽ばたこうとしている」ベルリンファイル 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
韓国映画が従来の枠組みを超えて世界に羽ばたこうとしている
北朝鮮と韓国のスパイ戦を、ベルリンを舞台に描くところが新鮮。ベルリンとは冷戦時代に各国のスパイが暗躍した、いわばスパイアクションの象徴ともいえる場所。そこを舞台に選んだこと自体、韓国映画が従来の枠組みを超えて世界に羽ばたこうとしている決意の表れではないかと思えました。その証拠に冒頭のスリリングで息詰まる展開から、一気に、複数の国の諜報機関が入り乱れ、複雑で多彩な国家間の関係を見せつけるのです。特に冒頭で、北朝鮮の秘密工作員のジョンソンがロシア人ブローカーを介してアラブ系組織に新型ミサイルを売ろうとしている武器取引の現場を韓国国家情報院のすご腕エージェントであるジンスが監視し、いざチームで突入しようとしていたシーンでは、いきなりイスラエルの情報機関モサドが侵入してきて、銃撃戦となりジョンソンをとり逃がしてしまうのです。
これまでの南北対立をテーマにしてきた韓国映画では、モサドが邪魔してくるなんてあり得ない設定でした。どうして、なぜと思っているうちに、CIAまで登場してきて、それぞれの国の諜報員が、それぞれの国の国益を担って、入り乱れていく導入部になっていたのですね。
韓国映画を国際的な配給マーケットに押し上げた「シュリ」から早いもので14年。その間でも韓国のアクション映画は、スリル満点のド派手な演出で常に注目はされてきました。しかし、舞台としてはあまり朝鮮半島を出ることはなかったと思います。
ところが本作では、ベルリンで大規模ロケを敢行し、そこを舞台に世界各国の思惑も絡み合う濃密にして予想不可能な展開までに、大風呂敷を広げたことが特筆すべきことでしょう。カーチェイスや切れのいいアクションも見せて、007シリーズのようなワールドワイドで評価されるようなスパイ映画が登場するのも時間の問題かなと思えたほどでした。もとい!本作でも明らかにハリウッドと肩を並べる領域に達したことを実感した次第です。
さらに脚本が今の北朝鮮の政治情勢が盛り込まれていて、一段とリアルティを感じさせてくれました。本作の台本執筆中に金正日総書記が死亡したことで、急遽三男・正恩氏へ政権移譲されたことなど、現在の北朝鮮情勢が反映したそうなのです。
後半は、ジョンソンの妻に二重スパイの嫌疑がかけられて、祖国から追われる命がけの逃亡劇に変わっていくという従来の南北関係や北朝鮮内部の抗争劇に収斂してしまうところはやや残念なところ。でも、そのぶん国家や社会に翻弄される男女が描かれることで、韓国映画らしい涙腺にたたみ掛ける刹那が描かれていくのです。アクション重視のハリウッドのスパイ映画では知的好奇心が満たされず物足りない人には、満足できる人間ドラマに仕上がっているのではないでしょうか。逃げるジョンソンの必死感も伝わってきて、緊迫感ある逃亡劇となったことをぜひ見て欲しいと思います。ジョンソン役のハ・ジョンウはなかなかいい演技でした。意外と痛切なラブストーリーなんですね。またネタバレを避けて詳しくは書きませんがあることで、ジョンソンと対立するスパイたちとの国家の垣根を越えた友情を見せるところでもホロリとさせられました。
但し、次から次に登場する設定と登場人物の多さに面喰らう場面もありました。まぁ何とか置いてけぼりをくらわず、ついていきました。もう一回見るときっともっとどんな話だったか得心できることでしょう。なので、なるべく映画サイトで予習していかれることをお勧めします。