「人命救助の為に殺し合い?」カサンドラ・クロス よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
人命救助の為に殺し合い?
対応策のないの感染症が列車内で拡大していく。この問題に対して、原因を作ったアメリカは列車をポーランドの「収容施設」へと運行させる。
今では考えられないほどの、欧州でやりたい放題の米国の姿が描かれている。イギリスとイタリアの製作であり、これが大戦後の欧州人のアメリカへの視線なのだろう。ジュネーブの保健機関の女医の、米軍大佐に対する視線や言葉がそれを代弁する。
そしてもっと皮肉なことに、窓を封印させた列車で、隔離すべき人びとを先程の収容施設へと運ぶことが、ナチのホロコーストに重ね合わせられていることは明白である。
そのような当時の国際情勢を批判的に暗示する一方で、人間は進退極まった時にこそ、その本音を見せ、信念に殉じるものだということもドラマとして見せる。
ソフィア・ローレンとリチャード・ハリスの夫妻は、本音を吐露し合うことのない結婚を二回も失敗させている。しかし、この危機に際して、互いの働きぶりに驚き、相手の真摯な人間性に気づく。
神父に変装して、麻薬の潜入捜査をするOJ シンプソン(後の彼が実際に起こした事件と対照するとほとんどコメディにしか見えないが)や、大富豪の愛人のマーティン・シーンも、他の乗客たちを救うために一命を擲つ。
オールスターキャストだし、オープニング(「サウンド・オブ・ミュージック」へのオマージュであろう。)とエンディングの空撮にはお金も技術もつぎ込んでいる。それにジュネーブの駅のロケも、ヨーロッパが鉄道によって結ばれていた在りし日が映っていて、欧州旅行が高嶺の花だった時代を懐かしむことができる。
しかし、これだけ大作の要素が備わっているにもかかわらず、いや、そうであるからこそなおさら、観客が納得できない面が目につく。
米軍の指揮所のセットは初期のスタートレックのエンタープライズ号ブリッジ並みに安っぽいし、封印を施された後の列車がそれまでのものとは別の車両であることが簡単に分かり過ぎる。
そして、ソフィア・ローレンの、全くのってない演技。
さらに、人命救助の名のもとに始まる銃撃戦。このおかげで、鉄橋から落ちる列車とともに、映画もまたB 級へと落ちるのだ。