「トランスレイター」レイルウェイ 運命の旅路 yanpakenさんの映画レビュー(感想・評価)
トランスレイター
原作が実話でも小説でも映画の出来には関係ない。心に刻まれる価値のある話かどうか、映画を見た時間が無駄だったのか無駄ではなかったのか、映画はそれだけで判断されるべきだ。正直、実話かどうかはどうでもいいのに、「これは実話に基づいた映画だ」ということを前面に出しているところが、この映画の限界である。
戦争という個人の責任を超えた問題と、個人の憎しみ。この映画の原作を読んでいないが、個人の追想記だと見て間違いないだろう。個人の著作であればそれで良いのだが、これを映画にすると、少し話が違ってくる。第一に多くの人と金が関わるので、映画が原作より力(権力)を持つ。第二に個人以外の第三者(しかも社会的経済的に力のある第三者)が原作を妥当と認めたと判断され、原作より映画は客観性を持つ。つまり、映画製作は原作を出版するよりも責任が大きいはずである。
日本人兵士を槍を振り回す未開民族のように描くのは問題だということ以前に、プロット自体に欠陥があることを指摘したい。戦争「加害者」と戦争「被害者」の和解がテーマなのに、なぜ、和解する「加害者」が通訳なのか?しかもこの通訳は「自分は通訳しただけで被害者に拷問などしていない」と宣言しているのだから、本当の意味で加害者ではないのである。
この映画を見て空しくなるのは、本当の加害者は被害者と和解していないのだなあ(あるいは和解できないのだなあ)という脱力感に襲われるからである。通訳という立場の「加害者」と被害者が「真の和解」を成し遂げるという実話を映画化した時の影響を考えるならば、実話を曲げて、拷問した日本人兵士もしくは上官を和解の当事者に据えて欲しかった。それこそが、実話の作者にとっても、観客にとっても、本当に願っているストーリーである。もしくは、通訳が拷問に加わっている情景を嘘を承知で描写すべきであった。もちろん、フィクションであることを明記して。