「どこに的を絞るのかで大きく感動の度合いが違ってくるだけに…」抱きしめたい 真実の物語 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
どこに的を絞るのかで大きく感動の度合いが違ってくるだけに…
主演の北川が、「どんなときもあきらめない、希望を捨てないことの素晴らしさ、難しいかもしれないけれど、どんなときも明るく、信じ続ける強さやその美しさを、つかささんを通じて感じたかなと思います」と語るように、本作は単なるラブストーリーではないのです。
北海道の網走市で実在した、交通事故に遭い、後遺症で記憶障害と車いす生活になりながらも自立し、結婚して、子供まで設けた障害者の女性の人生をエネルギッシュに生きた記録です。
塩田監督の演出の素晴らしいところは、障害者の暮らしを暗く重く描かないところです。例えば主人公のふたりが、食事しているところや、車でデートしているようなシーンでもクスッと笑っちゃうようなところがあって、たぶん観客が見てもあるあると頷きたくなるくらい、健常者のカップルの日常とから映えしないのです。
そんな障害を軽く越えてしまっている描き方がとても自然で力みがなく、まるでドキュメンタリーのようで、すごく心が温まる作品なんですね。
エンドロール後には、実際の雅己さんとつかさん結婚式の映像が流れるのですが、やはりつかささんは目力のつよくて意志の強そうな女性でした。だからこそ、医師からは「このまま死ぬ確率は60%、もし生き残っても一生植物状態」と告げられる状態で、寝たきり生活を抜け出して、2年間のつらいリハビリを耐えて退院し、自活できるところまで回復できたのです。その回復ぶりは、主治医が「つかささんは、医学では説明できない“奇跡のかたまり”なのです」と驚くほど。
でも、その過程では、つかさの母がどれほど苦労して一緒にリハビリをこなしたことでしょう。劇中、結婚の挨拶にきた雅己に闘病生活のビデオを見ろと母は強制します。映し出される映像は、まだ食事もまともにできない頃のつかさのリハビリ。必死につかさに頑張れというつかさの母の切ない気持ちが伝わってきて、見ているほうも泣けました。こんな大変な子で、いつ悪化するかもしれないのだから、安易な気持ちで結婚してほしくないと、雅己を突き放すつかさの母の気持ちも痛いほど伝わってきました。それでもつかさを純粋に愛する雅己の包み込むような優しさも感動的。
そんな実話に基づくストーリーなので、健常者でも人生の障害にぶち当たっている人にとって勇気が出てくる作品となることでしょう。不幸を耐えることは、辛いことばかりでなく、耐え続けるなかに真実は光るのだ、希望が芽生え出すということを実感できるでしょう。
つばさを演じる北川景子は、本人そっくりと家族に太鼓判を押された、一歩も引かない気の強さ、障害をものともしない信念を見事に演じています。また雅己を演じる錦戸亮は、そもそも演技でなく地のまんまの性格が滲み出る好演でした。
脇役では、DAIGO、周佐則雄が演じる脳性マヒブラザーズのなりきりぶりが凄いです。滑りまくるこのふたりの脳性マヒコントにもぜひご注目。
てただ作品としては、障害や闘病生活とラブストーリーと残された息子の現在の話で絞り込めていないところが絞り込めていません。結婚に至る過程とか、結婚後にもきのう起こったことも、そのすべてを覚えておくことができない「記憶障害」を負っていることから起こる問題、出産後のアクシデントなど肝心なところが描けていなく、省略されているところが気になります。
抱きしめたいのは、つかさなのか息子なのか、よく分からない結末でした。5年間にわたる取材を重ねたテレビドキュメンタリーが原作だけに、どこに的を絞るのかで大きく感動の度合いが違ってくるだけに、少々残念です。