劇場公開日 2014年2月1日

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「『人の不幸をこれ見よがしなお涙頂戴話に仕上げて、観客に気持ちよく泣いてもらって終わり、みたいな映画には決してしない』」抱きしめたい 真実の物語 そどごらさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0『人の不幸をこれ見よがしなお涙頂戴話に仕上げて、観客に気持ちよく泣いてもらって終わり、みたいな映画には決してしない』

2014年2月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

タイトルは本作の監督、塩田明彦監督の言葉から拝借。
安易に人の不幸を売り物にしている映画や、人の不幸で泣こうという観客に怒りすら覚えているかのような言葉が、同じ思いを抱く者として共感できたので。

この映画は、不幸の押し売りも涙の押し売りもしない。
いかにも涙を誘うような哀しげなピアノ曲の劇伴もなく、…というよりは登場人物の心が弾むシーンだけにハワイアン調の軽快な劇伴が流れ、それ以外は、無音だ。
そして長回しのシーンがとても多い。(しかもテストもなしだったとニュースで見た)
それが登場人物をとても生っぽく見せ、臨場感あふれる画面になっている。自分とスクリーンの中の登場人物との距離が0になったようで、世界に没入していた。

話は、妻を亡くし、子供と2人で暮らしている夫・雅己の回想形式で始まる。といっても彼らの周りには、彼らと故人を慕う仲間や家族であふれていて、そんな冒頭から思わず涙がにじんでしまった。

また、シーンとシーンのつなぎもとても秀逸。
テンポ良く進むのに無理がなく、程よくこちらに想像を膨らませる余地も残してくれる。

あまり詳しく言ってしまっても、と思うので好きなシーンを2つ。
楽しいはずの遊園地デートがとある出来事でぎこちなくなってしまった時に、雅己が突然あることをするシーン。2人は思わず笑ってしまい、いい雰囲気に戻る。
ちょっとしたことではあるが社会からつま弾かれてしまったつかさのために突拍子もないことをして笑わせる、その不器用な優しさが心地よくて染みた。
もう1つは、予告でも使われていた気がするシーン。雅己がとある歌を歌っているのだが、前後のシーンと合わせると、よくぞそんなドンピシャな歌が!と思ってしまう歌詞(笑)
真面目なシーンではあるのだが、飄々と歌っている雅己と歌と荒波の風景がマッチしすぎていて妙に可笑しいシーンだった。見てもらえれば言っている意味がわかります。

とてもいい余韻の残る映画だった。
キャストは全員宛て書きかと思うくらいハマっていて魅力的。
なにより、この手の題材を、こう調理した塩田明彦監督の手腕と勇気と誠実さに拍手を送りたい。

そどごら