「ギャレス・エドワーズ監督には感謝しても仕切れない程です ハリウッド版ゴジラの正しい役割を果たした名作だと思います」GODZILLA ゴジラ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
ギャレス・エドワーズ監督には感謝しても仕切れない程です ハリウッド版ゴジラの正しい役割を果たした名作だと思います
ハリウッド版ゴジラには2種類あります
俗にエメ・ゴジとギャレ・ゴジと言う二つです
つまり一つは1998年のローランド・エメリッヒ監督版のゴジラ
もう一つが2014年のギャレス・エドワーズ監督版のゴジラというわけです
ご存知の通りゴジラは、1954年の本多猪四郎監督の「ゴジラ」が元祖
シリーズは15本も撮られて、1975年まで続きました
これが昭和ゴジラシリーズです
平行してラドンやモスラなどの怪獣映画も多く撮られて、次第にいまでいうところのマルチバース展開を世界で初めて発明しています
マーベルヒーロー達のマルチバースの数十年も昔のことです
9年後、リブートのゴジラが、1984年から1995年にかけて7本撮られます
これが平成ゴジラシリーズ
4年空けて、2回目のリブートがされて、1999年から2004年にかけて6本撮られたのがミレニアムゴジラシリーズです
そして、2016年の庵野秀明総監督の「シン・ゴジラ」が3回目のリブートになるわけです
昭和ゴジラシリーズが終わったのは、所謂コンテンツ疲労でした
いわばマンネリ、クォリティー低下
当初のコンセプトから大幅に逸脱した観客対象の低年齢化
そのターゲットだった団塊世代が子供から大人になってしまったのです
映画界全体もテレビに押されて斜陽化して動員観客数がみるみる低下していき、最後には窒息してしまったのです
だから最初のリブートは、団塊世代が家族をつくり、子供の手を引いて映画館に戻ってくるのを待って製作されたわけです
団塊Jr. 世代は1973年が出生のピークですから、1984年なら小学5年生になっています
ただ昭和ゴジラと違うのは、対象観客が小学校高学年なので、昭和ゴジラシリーズよりも対象年齢を上げていることです
また昭和ゴジラで育った親達大人の鑑賞にも耐える内容を目指したようです
では何故1995年に平成ゴジラシリーズは終わったのでしょうか?
それは団塊Jr. 世代が1993年に20歳になったからです
だから観客動員数が急速に失速を始めたのです
そして忘れてはならないことは、1993年は「ジュラシック・パーク」が公開された年だと言うことです
日本特撮界にとっては第3の黒船です
最初の黒船は「2001年宇宙の旅」と「猿の惑星」でした
第2の黒船は「スター・ウォーズ」と「未知との遭遇」です
そして第3の黒船「ジュラシック・パーク」は、日本特撮界の本丸「怪獣」に攻め込んで来たのです
明らかに勝てない
どう足掻いてもこのような特撮映像は日本特撮にはできない
理屈はわかっても、具体的なやり方すら分からなかったのです
日本の当時のVFXの技術は、鎖国の江戸時代のように立ち遅れていたのです
従来の怪獣映画は一気に陳腐化されてしまったのです
日本の怪獣映画は今後どうすればよいのか?
どうすれば生き残れるのか?
最初の黒船の時のように無かったことにする
日本は日本、洋画は洋画
攘夷打ち払いです
第2の時のように、なんとか見よう見まねで技術を修得して追いつく努力をしていく
明治の文明開花のように
しかし今回の黒船は圧倒的でした
日本のお家芸の怪獣映画のお株を奪われてしまったのです
対抗しようにも手も足もでない
ではどうしたらいいのだ?
これからVFX を学んでも十年かかっても追いつくことは無理そうに思えたのです
それほど立ち遅れていたのです
ゴジラをまた金のなる木のコンテンツにする為の第3の道はないのか?
それがハリウッドゴジラです
日本で無理なら、ハリウッドに作って貰おう
大変シンプルな答えです
反面
口悪く言えば、無条件降伏です
製作予算規模は、10倍は掛かっても、ハリウッドに権利を貸してコンテンツのライセンス料を貰えば良いのです
もちろん幾分かの出資は必要でしょう
これで出来上がったのが1998年のエメ・ゴジというわけです
多分1994年の年末公開が最初の計画だったようです
日本の怪獣映画みたいに1年もあれば撮れるでしょうなんて安易に考えていたのだと思います
ところが、完成したのは1998年でした
一から企画スタートならこの規模の映画で5年後の公開ならまあ普通です
なので仕方なく穴埋めで2本を作ったものの力つきて平成ゴジラシリーズは1995年で終了しました
入れ替わるように平成ガメラシリーズが1995年から1999年に掛けて公開されます
これは日本の怪獣映画をVFXで撮る為の最初の挑戦であったと思います
素晴らしい内容で、名作として日本の怪獣映画の金字塔であると思います
第1作は1995年、第2作は1996年と続き私達怪獣映画ファンは熱狂しました
そして、ハリウッドゴジラが遂に完成して、いよいよ1998年夏に公開されると正式に発表されたのです
私達怪獣映画ファンは、首を長くしてそれを待ちました
大変な期待を持ってその公開を迎えたのです
1998年7月11日、そのエメゴジラが満を持して公開されました
興行的には大成功を納めました
歴代のゴジラシリーズの興行成績を遙かに上回ったのです
シン・ゴジラが82.5 億円、シン・エヴァンゲリオンが100億円を突破しているので、本作の興行成績が51億円といえば、大したことないように思えるかも知れません
しかし、シン・ゴジラ以前に最も動員したゴジラ作品の1.5 倍もの成績を叩きだしたのです
当時としては驚異的な大ヒットだったのです
ところが内容は、日本のゴジラファンに取って散々なものでした
黒歴史にすらなっています
私達は落胆し、奈落の底に突き落とされたような気持ちで劇場を後にしたのです
私達、日本のゴジラファンはハリウッドゴジラに一体何を期待していたのでしょうか?
どういう映画であったなら満足できたのでしょうか?
それはこうだったはずです
ジュラシック・パークのような本当に生きている、実在しているかのような、着ぐるみとは別次元のリアルなゴジラ
それがNY など世界を舞台に破壊の限りを尽くす
ハリウッドの有名スターが登場して、子供向けではない大人が楽しめる物語
ハリウッドらしいスケールの大きな展開
できれば、日本人もちらっとでもよいので登場して欲しい
最も大事なことはゴジラは核実験の結果、誕生した怪獣であること
これは絶対譲れない
でも、これらのことはエメ・ゴジラは全部クリアしているのです
注文通りなのです
しかも大ヒットしました
これでなんで非難されなければいけないのか?何の文句があるのか?とエメリッヒ監督は思ったことでしょう
しかし、私達には許せなかったのです
それはゴジラへのリスペクトがなかったからです
ゴジラという存在は何なの?かへの理解が決定的不足していたからです
ゴジラはトカゲではないのです
人を思わせるような形態でなければならないのです
ゴジラは米国の核実験で生まれた怪獣であって、他国の核実験による産物では有り得ないのです
それ以外にも半世紀に渡って積み上げられてきたゴジラ映画での数多くの約束事は、大事な文化なのです
それを全て踏襲する必要はないにしても、全部飲み込んで消化した上でゴジラ映画を作って欲しいのです
日本のゴジラ映画だって観るに耐えない散々な出来の作品だって幾つもあるのです
エメ・ゴジラの方が断然よいと思うぐらいの、ゴジラへのリスペクトもなにもない日本製作のゴジラ映画すらあるのです
だから外国人にそれを理解して撮れといっても限界があります
無理なのかも知れません
しかし、それをやってのけたのが本作です
ギャレス・エドワーズ監督は、英国人で1975年6月生まれ
昭和ゴジラシリーズが終わったのはその年の3月のことでした
幼少期に「スターウォーズ」に影響を受けオタクの道に入ってきた人物
自然とゴジラシリーズのファンとなったのです
オタク第一世代の庵野秀明は1960年、樋口真嗣は1965年生まれ
海外であることを割引けばオタク第二世代に相当すると思います
海外に育ったオタクがハリウッドで本作を撮ってくれたのです
彼がエメゴジラの仇を討ってくれたのです
クレジットはないものの本作の脚本にかかわったフランク・ダラボンはインタビューにこう言っています
彼は名作「ショーシャンクの空に」の監督です
「『ゴジラ』を見て我々が学んだことは、ゴジラが広島と長崎の原爆、そして当時我々アメリカ人が行った核実験のメタファーであるということだ」
そして音楽のアレクサンドル・デスプラもこうインタビューに答えています
「伊福部の音楽を学ばずして、ゴジラという存在を表現することはできない」
そして監督のギャレス・エドワーズ自身が2012年のコミコン(一口で言えば米国のコミケ)でこう語っています
「これこそ(自分が)やりたかったことだから。この作品が東宝のゴジラの一部になってほしいと思う。これこそ本物のゴジラ映画だ、といわれるように。」
それが本心である証明に、本作の撮影の初日のファーストショットは宝田明のカメオ出演シーンだったのです
主人公のフォードを担当する入国審査官の役だったそうです
しかし、種々の事情から泣く泣くカットしなければならなくなったのだそうです
「ゴジラを愛する者として一番つらかった」そして「最大の後悔だ」と後に語っています
カットを決めたあと、彼はは宝田明に謝罪の手紙を書いたといいます
いつの日にかこの没カットが特典映像かディレクターカット版など何らかの形で復活することを強く願います
関係者の皆様、切にお願い致します
渡辺謙の役は、芹沢博士
もちろん第1作の登場人物 芹沢大助博士からの由来
そして下の名前はイシロウなのです
初代の本多本多猪四郎監督からの由来です
このように、先に挙げたハリウッド版ゴジラに求める私達日本人の怪獣ファンの要求は全て完璧に満たしているのです
これ以上を求めるのはないものねだりです
日本人の撮った幾多のゴジラ映画が、そんなご立派なことを言えるものでないことは、私達こそ一番良く知っているではないですか
欲を言えば、初代のゴジラを上回るものを観たかった
それはあるでしょう
しかし現代でそれがどのような物語になるのか
それは誰にもわからないことです
シン・ゴジラは本作の2年後、2016年の公開でした
製作発表は2014年12月
本作の日本公開は同年7月
つまり、本作の大成功を受けて日本での製作再開が決定されたのです
本作が無ければ、「シン・ゴジラ」もまた無かったのです
あの悪夢の「ゴジラFinal Wars」がゴジラの歴史に泥を塗ったまま終わっていたのです
本作こそ汚辱にまみれたゴジラを救い出し「シン・ゴジラ」の呼び水となり、キングコングをリブートさせ、モンスターバースシリーズを生み出したのです
こんな重要な作品はないでしょう
ゴジラ中興の祖、いや怪獣映画の中興の祖とは本作のことです!
ギャレス・エドワーズ監督には感謝しても仕切れない程です
ハリウッド版ゴジラ
その正しい役割を果たした名作だと思います
蛇足
もしも、本作のゴジラが日本の伝統的なゴジラのスタイルであったらなら?
ムートーがカマギラスであったなら?
もう何も言うことがないと思います