劇場公開日 2013年11月23日

「姿無きエゴイズムの形。」かぐや姫の物語 yuki-yo@ybfbwさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0姿無きエゴイズムの形。

2013年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

幸せ

 宮崎駿の『風立ちぬ』に続き、今年のジブリ作品は手強くて、じつに楽しい。
 どちらも傑作であり、
 また巨匠と呼ばれる人物が、エゴを全開にして作品を作っている点で共通しているのが、興味深い。
 『風立ちぬ』は、
 宮崎駿個人の理想、思想、意志で描き抜いた、エゴイズムな作品である。
 その表現のために堀越二郎、堀辰雄とゆー二人の人物と、
 日本戦史から航空機の歴史までも媒介とした、バケモノのよーな映画だった。

 『かぐや姫の物語』は、
 原作である「竹取物語」に忠実であり、逸脱したものではない。
 現代的な解釈があるわけでも、斬新なアレンジがあるわけでもない。

 ならば何故、
 今、このよーな作品を完成させたのか。

 まず、『かぐや姫の物語』には、高畑勲監督個人の投影は、一切ない。
 ジブリアニメ的な特徴すら乏しく、物語は昔話である。
 しかし、圧倒的な絵の力、動画はジブリだからこそ描けたもので、
 昔話を語る、魅せる力は、高畑勲の非凡な演出によるものだ。
 完成までに8年もの時間と、莫大な制作費が費やされた。
 監督やスタッフにも高齢な方が多く、安易に次作を望む状況ですらない。
 そうして生まれた作品とは、何か。
 遺産である。
 誰かが、
 誰にでもわかる、最高水準のアニメーションを、
 日本だけではなく、世界にも向けて作らなければならない。遺さねばならない。
 そんな姿なきエゴを命題として、この作品は生まれたのだと、感じられた。
 灯火のような、
 時代の風化にも耐えうるアニメーションを作る、と。

 そしていつか、
 この作品に触れることで、新たな高畑勲や宮崎駿が生まれることを、望むかのように。

yuki-yo@ybfbw