陽だまりの彼女 : インタビュー
上野樹里、銀幕デビューから10年を経ても変わらぬ情熱
“のだめ”の影響だろうか? 失礼ながら、もっと感覚的で天才肌のタイプの女優だと思っていた。だから役柄や芝居について語る上野樹里の姿――その情報量の多さ、そして細部に至るまでの理論の積み重ねに正直、圧倒された。(取材・文・写真/黒豆直樹)
ある秘密を抱えたヒロイン・真緒を演じた「陽だまりの彼女」が、10月12日に全国で公開される。真緒と、中学時代の同級生で唯一の味方でもあった浩介(松本潤)の10年ぶりの再会と恋の行方を、ファンタジーを交えながら優しく描き出す。
上野にとっては「のだめカンタービレ 最終楽章 後編」以来、3年ぶりの映画出演。その後、1年にわたってNHKの大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」に主演するなど、頻繁にテレビで姿を見ていたため、3年もスクリーンから遠ざかっていたという気がしない。本人も同じ感覚のようで「3年ぶりって聞くとびっくりですよね(笑)。それだけ自分の中に(映画が)残っているということは、大事な作品に携われていたということなんでしょうね」としみじみと語る。
「この作品自体の温かく優しい雰囲気でというのも大きかったと思うんですが、久しぶりということに対し、特に『お邪魔します』というお客さんのような緊張感もなく入れたんですよね。初日の時点で割と役が出来上がっていて、いままでよりも楽な気持ちで現場にいることができました」。
原作は越谷オサム氏による同名小説。帯には“女子が男子に読んでほしい恋愛小説No.1”という言葉が踊るが、映画もまたこのキャッチコピーをしっかりと引き継いでいる。「秘密を抱えた真緒がほんの時折見せる仕草や表情が、なかなか男性が気づいてくれない女心を表現してるのかなと思います。小説は浩介目線で描かれていますが、映画では真緒の目線もしっかりと描かれていて、ふと気がついたときには浩介は真緒をすごく深く愛しているんです。もし愛する人と離れ離れになったら、それはすごく悲しいことですけど、浩介は必死になって真緒を探してくれる。それは女性にとってすごく幸せなことだし、男の人にそうあってほしいと思うでしょうね。ちなみに聞いたところだと、この映画を見て試写室で泣いている男性も結構多いらしいですよ(笑)」。
真緒役に決まったとき、周囲からは「ぴったりの役だね」と言われたという。陽の光の中で輪郭がボンヤリと儚く揺れ動くような佇まい、次の行動が読めない突拍子のない感じなど、「確かに」とうなづきたくなる。当人は「正直、自分では分からないんですよ。『全然違う』と言われるよりはいいのかな。でもやる前から勝手にハードルが上がっちゃたなと思いました」と苦笑する。
ファンタジーとリアルの境界線の中で真緒を、そして浩介との関係性をどのように見せるか。三木孝浩監督からは「こんなにシンプルに互いを愛するカップルはなかなかいない。いまの時代に難しいことを素直にやっていること自体がファンタジー」と言われた。
「私のどこが真緒なのか。どうしたら真緒のかわいらしさが出るのか。三木監督の中にしっかりとイメージがあったので、それを受け取りながら真緒像を作っていきました。現場に入ってからは複雑に考えず、素直に気持ちよく真緒としてそこにいて浩介を愛しているだけで、ファンタジーを本当のように見せられたのかなと思います。真緒は秘密を抱えていますが、決してそれが“オチ”だとは思っていないし、それが伝えたいことではないんですよね。この2人に限らず、誰しも恋愛の中で好きだからこそ弱みを隠したり秘密を抱えたりしているけど、それを全部さらけ出せば傷のなめ合い、なれ合いになってしまうこともある。真緒として、最後まで2人の居心地のいい空間、“陽だまり”感を大切にしたかった」。
冒頭でも触れたが、当然ながら「素直にそこにいる=素のまま」ではない。今回の真緒を含め、奇妙で常識から外れた存在であればあるほど、感覚ではなく緻密に、繊細にロジックを積みあげ、役を組み立ててきた。「考える時間こそが役者です」と言い切る。「いきなり感覚で演じるなんて、おそれ多くてできないです。常に『私なんかに出来るのか?』という気持ちから入るし、だからこそ綿密に考える。本番なんて一瞬です。その一瞬のために考えて、考えて、考え抜く。その日、3つのシーンを撮るなら、そこにフォーカスして『午前中はこう過ごして、午後は…』って全てが変わってくる。自分で役をコントロールしないと、のみこまれちゃうこともある。自分というものを分かりつつ、役と同調していき、なおかつ全体も見えてリラックスしているのが理想ですけど、そのためにはやっぱり理解することが必要なんですよね」。
スクリーンデビューから節目の10年を迎えたが「今回の『陽だまりの彼女』はある意味でターニングポイントになったかなと感じています」と話す。「自分の中で『温かい作品をやりたいな』と思い始めていたときにお話をいただいた作品だったんですよね。いままで正直、周りを見ずにバーッと走ってきた部分があったと思うんですが、周りの景色を楽しみつつ、仕事以外の部分も含めて刺激を受けて、自分にエネルギーを与えつついろいろチャレンジしてみたいことも出てきましたね」。
自分自身が変わり続けていること、周囲に求められるものも変わっていくことを自覚した上で、それを楽しんでいるかのようにも見える。映画の中に出てくる「神様のいたずら」という言葉を引用しながら、胸の内を明かす。「先のことは分からないけど、年齢と共に役柄もポジションも変わっていくんだということは感じています。誰でも人生の中で自分の力ではどうにもならない部分はあると思うし、どんなに計算してもその通りにいかないことがほとんど。女優だってどんなに『こういう役をやりたい』と思っても、プロデュースするのは自分じゃないんだから。それをポジティブに受け止めて、『こうあるべき』というこだわりを持たずに可能性を広げていきたい。常に“インポッシブル”を“ポッシブル”にしていきたいんです。自分でも想像もしていなかったところに立っているなと思いますが、せっかくダイレクトに自分を表現できる女優という立場にいるのだから、情熱を持ってやっていきたいと思います」。10年選手となった上野樹里の“ミッション・インポッシブル”を、期待をもって見届けたい。