「これは予想以上に凶悪で面白い!」凶悪 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
これは予想以上に凶悪で面白い!
私は、通常主人公が悪人や、犯罪者という設定のドラマは嫌いなのだ。
だがしかし、この作品は文句無く面白かった!
この作品では山田孝之演じる主人公のジャーナリスト自身は決して悪人ではないのだが、事件と関わる中で、彼自身が家庭と仕事との板挟みになり、公私共に追い詰められていく。その過程で、彼の気持ちに変化が生れる。
その変化こそが、この悪人達に付け込まれるような、可能性をはらんだ、誰にでも起こり得るかも知れない危険な香りがする。
そんな同質感を持たせながらドラマが進行して行く面白さに魅かれた。
山田孝之は未だ若い俳優だけれども、彼は多才なキャラをこれまで演じて来た非常に巧い俳優だと思う。この映画のラストも、ぞっとする位、このジャーナリストの心の闇、心情が出ていて良かった。
そして何と言っても、この映画では最高に超不気味で良い芝居が冴えていたのが、先生と呼ばれる、悪徳ブローカーを演じたリリー・フランキーだ。
つい先ごろ公開された「父になる」では、彼は人の良い、人情派の電気屋の親父さんを演じていたが、この映画では、偶然にも、人の良い電気屋の親父に保険金をかけて、自殺に追い込ませると言う逆転の役処には驚かされた。
この小心者の先生と言う人物が、次々とピエール瀧演じる須藤と言うヤクザ者を利用して、殺人をさせていく辺りの、背筋の寒くなるような展開から一瞬も目が離せなかった。
そしてジャーナリズムの持つ正義の意味についても考えさせられたし、個人の正義感や、良心を持続させる境界とは何か?何が人を犯罪へと駆り立てるのか?などなど、人間の心の闇について色々想いを巡らせられる作品だ。
本当に人間の心の中に芽生える憎しみは、初めはちょっとした些細な出来事から、生れるのかも知れない。そしてその小さな憎しみの気持ちが殺意へと変化するのは、そんなに大きな劇的な変化を必要とせずに自然とやって来るのかもしれない。正に誰でも、凶悪になる可能性が有る恐さを感じさせる所にこの作品の面白さが有る。
夏前に公開された「二流小説家」では、いかにも精神を病んだ犯人の犯行の動機の、その異常さに驚嘆したが、この作品では、人の善悪を隔てるボーダーラインの危うさに有り、実は、通常高いと思って信じているそのハードルも案外楽々と凡人でも越えてしまう瞬間がある。そんな恐さが、ミステリー要素の全く無い本作が、心の闇と言う人間の心のミステリアスな真実に踏み込んだ面白さが最高だった。この映画の終映後は、それぞれのキャラクターを通して、人間の善悪、人の心の不思議な力を思わずはいられない!