「黙々と暮らす少女にまとわりつく世界は荒地」三姉妹 雲南の子 redirさんの映画レビュー(感想・評価)
黙々と暮らす少女にまとわりつく世界は荒地
配信で見ることができた、大変にありがたい。
画面に釘付け目が離せない。
雲南省標高3200メートルの、見捨てられたような暮らしをする村。洗羊塘(シーヤンタン)。雲南の子というタイトルでチベット族か雲南の山岳少数民族かと思っていたら、冒頭紹介される三姉妹も村の人もお名前から察するにみな漢民族のようだ。
風の音ひたすらゴーゴーと唸るような高地の風の音、犬、猫、羊山羊豚馬ロバ鶏家畜家畜家畜の鳴き声、人々の声、そうでなければ皆肺を病んでいるか結核のような乾咳の音、ナレーションも音楽もない。時折幼い姉妹が歌う歌。子を捨て出ていったからお母さんはいない。お父さんは時々出稼ぎに行くようだがうまくいってないようだ。
長女はほとんど笑わない。
貧しさとか、そんな言葉では表せない暮らしぶり。家畜の小屋とほぼ変わらない家。他の家の兄弟もお母さんが逃げて家も倒壊してしまったそうだ。親戚の家でご飯たべたりたまに泊まってTVをみたりするが、レベルの差が少し付いてるだけでみな貧しいから心からの助け合いでもないようだ。
風の音、家畜の糞と餌とほぼ混じり合うような生活。壊れた靴。それでもわずかな時間学校に行く。
貧しいがお父さんはとてもエレガント。
小さな妹たちはまだ幼く、笑顔でおもしろおかしく暮らしていたが、お父さんと街の生活をした後村に戻ると少し分別がついて母がいないことが身に染みるように。
ハイマツしかない高地、美しい山に囲まれているが誰が美しいと愛でるのだろうか、そんな生活。ハイマツの松ぼっくりや家畜の糞を集め、種イモを蒔いて細々と畑をつくり、人も豚もじゃがいもを食べる。
2012年香港フランス映画となっておりおそらくワンビンは中国当局に内緒で最貧の山の農村を撮影したのだろう、収穫祭として村の家にご馳走食べに集まった人々に村長は電気もガスも水道下水も、舗装した道もないこの村に、農村振興というスローガンの下政府は税金や社会保険料を取ろうとしていると話す。
大都会では普通の日本人より贅沢に暮らす富豪たちや、庶民もハリウッド映画やハリウッド顔負けの中国映画華やかな世界を楽しんでいる人もあるだろうう、そのような都会どころかバスで何とかたどり着くちかくの貧しく小さな市街地でも暮らしが成り立たない人たち。搾取と放置、無関心。
ひたすら村の主に家畜の喧騒と風の轟音と子どもや大人の咳の音を、ぬかるみを歩く足音を聴かせてワンビンは強くこの不条理世界を見せつける。