「マグロの赤身とコハダが好きです。」二郎は鮨の夢を見る かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
マグロの赤身とコハダが好きです。
寿司界伝説の巨人『すきやばし次郎』の小野二郎氏をフィルムにおさめたドキュメンタリー。
寿司といえば、よく誤解されがちに、
「お刺身とごはんをにぎっただけのもの」
っていう定型句で言われてました。
今ではそんな偏狭を口にする人はほぼいなくなりましたけど。
寿司は日本を代表する料理。
このフィルムには食材の目利き、仕込み、そしてにぎり、提供までの工程すべてに日本人らしい完璧を求める心が横溢してます。
とくに仕込み。
ネタケースの中で鎮座している強力な魚介類+焼きもの。
ぼくらを迎え討つべくまちかまえている彼らは、きちんとした仕事をされていないと、どれだけ新鮮でも、そのポテンシャルを発揮できないそうです。
マグロの赤身とコハダが好きです。
マグロの赤身とコハダが好きです!
小野二郎さんといえば、マンガ好きには『美味しんぼ』によく出てきたあの寿司職人さんのモデルといえば、わかってもらえるでしょう。
たしかそっちの名前は「富二郎」でしたが。
捨てシャリ(とった酢飯を桶にもどす動作)を一切せず、たなごころにおさめた一貫の飯粒の数をあて、シャリのCTスキャンで空気の含ませかたを提示した、あの職人さんです。
まだ今ほど『すきやばし次郎』の知名度がなかったころ、飯粒の数をあてるパフォーマンスは、常連のお客さんなんかにはよく披露されてたそうです。
今は、本編のとおり予約3年待ちの大繁盛店ですので、そんなおあそびもやらなくなったでしょうけど。
そんな二郎さんですので、江戸前寿司関係の本によく出てらして、いろんな逸話をのこされてるんですが、おもしろかったのが、
「夕方店の軒先にでると、その日の売り上げがわかる」
という言葉。
腕組みして町をながめてると、気温や湿気から、だいたいの客足がわかる、とのこと。
こちらも、今みたいに予約ぎっしりでないころの話だそうですが、なんか神がかってますなあ。
ご本人の雰囲気ふくめ。
こんなエピソード聞くと、高級寿司をたべなれない分際ではありますが、一度は二郎さんのにぎりを口にしたいなーなんて思ってしまいます。
ぼくらは二郎さんの寿司を夢に見、二郎さんは鮨の夢を見る。
自分、歯医者をふくめたあらゆる予約が苦手なので、きっと一度も足を運ばずに夢で終わりそうですが。
スシローで満足しちゃう貧乏舌のもちぬしですが、志賀直哉の『小僧の神様』みたいに、シュポっと入ってササッとお寿司つまんでスッとお店を出る。
のれんのすみっこでゆびをキュッとぬぐう、みたいないなせを、こんなお店でやってみたいもんです。
そうなったら、もちろん食べてやります。
マグロの赤身とコハダ、食べてやりますよ!