「深淵を覗き見る」さよなら渓谷 マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)
深淵を覗き見る
レイプ犯と被害者に関するありえない状況設定にもかかわらず、そこに至る経緯と心理が説得力をもって描かれる。
しかし、その状況はやがて終わりを見せる。どうしてなのか、と主人公かなこの気持ちに思いを巡らすことになるのだけれど、よく考えてみれば、この幕切れは必然だと気付く。描かれた2人の状況の中で、しあわせな生活が続くとすれば、物語は嘘になってしまうのだ。
実は、見る側が望む幕切れであり、同時に登場人物が自ら動きだしたとき自然に物語が進んでいくその先にある必然の展開なのだ。つまり作者も含め、誰もの心の中にある自然な心の動きが、この幕切れを生み出している。
もしかしたら、この幕切れが常識や正論と言われる側のものなのだろう。
しかしかなこは、そうではない心理に突き動かされてもいる。つまり、常識や正論からはずれた衝動。非常識も含めた反常識と呼べるような心。と同時に、彼女は常識的な判断もする。矛盾した2つの心のグラデーションを、揺れながら生きているのだ。
そのように、かなこの心に気付いた時、実は自分の心を投影してかなこを見ている。かなことは、自分のことに違いない。
だから、かなこの矛盾を平明な言葉で納得してはいけない。そうした深淵をのぞき見ながら、受け入れていくこと。人を理解するとは、そうした営みなのかもしれない。
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