「好きなことは止められない。」ばしゃ馬さんとビッグマウス ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
好きなことは止められない。
観終えた時にトンデモなく胸の奥がズキンとなる作品だった。
夢と現実の折り合い。がつかなくて、もがいている人が観たら
どんな気持ちになるんだろうな…というリアル感が堪らない。
夢をあきらめるという、自分の気持ちに区切りをつけるという、
その行為を経てもなお、性懲りもなく夢を追っている人がいる。
どんな夢であれ、抱いてしまったものはおそらくそれが叶うまで
ずっと思い切れないものだと私は思う。万が一それが叶った時、
それまでの夢とこれからの現実にまた何かしらで悩むのだろう。
どこまでいってもこれで終わり。っていうのはおそらくなくて、
悩む人は一生悩むだろうし、悩まない人は一生悩まないものだ。
ばしゃ馬さんのように脚本家一筋!の主人公・馬渕は、観ている
だけでこちらまで辛くなる。才能のあるなしを、誰がどこでどう
決めるかは分からないが、きっと本人が納得するまで終わらない。
本人も分かってはいても、どうしても諦めきれない。の思いで
取り組んでいるので、これは本人が納得するまで終わらない戦争。
大口を叩き彼女をからかう天童も、実際の努力が叶わない現実を
自身が書くことで初めて体験する。巧く書けたと思うのは本人だけ、
審査する側は、きっとそんな脚本に対して魅力など感じていない。
さらに巧い下手の問題以外でいえば、多分に運やコネも関係する。
どこでなにが功を奏するかなんて、例えば流行をひとつとっても
本当に予測がつかない。それを瞬時に活かしたひと握りの人間が
選ばれて、磨かれて、宣伝されて、世に羽ばたいていくのだ。
マツモトキヨコには、もともと才能はあったのかもしれないが、
馬渕と同じく一次選考で落ちていたことを考えると、最初から
ズバ抜けたものを発揮していたのではなさそうだ。どこかで運が
向いて彼女に風が吹いてきたような(なんだこの抽象的な表現は)
目をつけられた。というあたりからそれを活かしていったと思う。
だから、どこでなにが起こるかなんて分からない。
馬渕も…万が一この先、55歳で花開く!なんてことがあったかも?
(そういうこといってたらいつまでも諦められないね)
コメディ、というほどでもなく、恋愛モノ、にもならず、どこか
中途半端な描き方と終わらせ方が、いかにもありそうな映画の顛末
に沿ってはおらず、特に授賞式の見せ方は秀逸!で、残酷至極。
だけど、こんな経験をしている夢保持者は未だゴマンといるわけで、
ばしゃ馬のように、大口を叩きながら、夢に邁進している人がいる。
馬渕はあのまま終わるか。実家の旅館で繁盛記でも書くんじゃないか。
またそんな夢を彼女に抱いてしまった。
(夢が叶う以前に好きなことは止められないものだよ。誰だってそう)