「かなり罪深い」ゾンビデオ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
かなり罪深い
乾坤一擲のワンアイデアで2時間弱を乗り切ろう的な、よくある低予算映画ではあるのだけど、何がタチ悪いかってアイデアそのものが割と面白いところ。ゾンビ映画が積み上げてきた膨大なアーカイブそれ自体を武器にゾンビを撃破していく、というのは私の浅薄なゾンビ映画歴からしてみれば斬新なものだった。そのうえ、いかようにも面白く調理できそうだ。
にもかかわらず本作は過去作の固有名詞を無意味に羅列するばかりで、肝心の「ゾンビ学入門」ビデオにはそれらへの参照点などはほとんど見当たらない。こっちとしては本作が露悪的なパロディ映画ということは百も承知なのだから、もっとこう、歴史の深みでブン殴る、的な蘊蓄パワーが欲しかった。ただ、ゾンビ映画から脈絡なくカルトSFへとシフトチェンジする終盤の展開はルチオ・フルチっぽくてよかったと思う。
撮影が絶望的に地味というのも残念ポイントの一つかもしれない。深夜ドラマ的なコンパクトで基本的にバストアップしか映さないような画角が多すぎて、ゾンビ映画にあるべき臨場感がまったくない。いくら恐怖要素抑えめのゾンビ・コメディといえど緩急の振れ幅が小さすぎると見るのが苦痛になってくる。『ロンドンゾンビ紀行』とかを見習ってほしい。
何にせよ、面白そうなアイデアが他のさまざまな要素によって無残にも窒息させられていることに悲しみを通り越して怒りさえ覚える。頼むから同じアイデアでもう一度撮り直してくれ、と切に願う。
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