「知らなきゃ良かった特典映像」フッテージ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
知らなきゃ良かった特典映像
『エミリー・ローズ』のスコット・デリクソン監督、
中堅俳優(?)イーサン・ホーク主演の最新ホラー。
郊外に引っ越してきた作家が、新居の屋根裏で発見した
5本の8mmフィルム。それらには、異なる5家族が
何者かによって惨殺されていく様子が記録されていた。
フィルムの謎を追う内、作家の周辺でも不審な
出来事が起こり始め――というあらすじ。
中田秀夫監督の『クロユリ団地』がドラマとしてはさておき
恐怖映画としては随分物足りない出来だったので
ここのところ恐怖映画に飢えていた僕だが、
そのフラストレーションも本作で解消!
いやまあ怖いこと怖いこと!
じわじわ明かされてゆくフィルムの中身、そして謎。
どのフィルムもおぞましいが、開巻直後に流れる1本目の
フィルムのイメージは強烈だし、5本目のフィルムでは
口から心臓が飛び出しそうになった。
いきなりああいうのやめて……。
フィルムを再生するたび、家が何者かに少しずつ
侵食されていくような描写も◎。スローと平速が1画面に
同居するシーンや終盤の“はしご”も面白いアイデア。
最後の展開も、僕はまんまと作り手の策にハマってしまっていた訳で。
古いフィルムという不気味なモチーフを存分に活かした
設定や、背景の暗闇・空白を活かした画作り、
直接的なショック描写よりも“気配”でじわじわ恐怖を煽る
演出などからは、やはりジャパニーズホラーの影響が
色濃く伺える。
しかしそれだけでなく、最近流行りのPOV(主観視点)
手法も効果的に使用。ざりざりした8mmフィルム映像が
スクリーンいっぱいに映し出される度、何かが
飛び出してきそうな緊迫感に画面から目を背けたくなる。
アメリカンホラー的なコケオドシ演出もここぞという場所
で活用しており、昔ながらの手法と昨今の手法とを
上手に折り混ぜているという印象だ。
毎度ながら“Jホラー”の真似事と揶揄する向きも出てきそう
だが、良い手法であれば他人に真似されるのは宿命。
それ以上に、ハリウッドのホラーはあらゆる手法を貪欲に
取り入れてどんどん恐怖演出の幅を拡げているのだと感心。
それに比べて最近の日本と来たら『貞子3D』などという
超絶ク……あ、レビューと関係無いや、やめとこ。
そして忘れちゃいけないクリストファー・ヤング!
『ヘルレイザー』『コピー・キャット』『フラッド』
『スペル』等々、この方の楽曲が僕はもう大好きなのだが、
今回も擦り切れたフィルムのリピート再生を思わせる不気味な音で攻める。
うめき声のようなコーラス。虚ろな子どもの呟き(one, two, three……)。
フィルム再生シーンで流れるぼんやりざらざらした音楽は、
古びた映像との相乗効果で更に恐ろしい。
原題『SINISTER』は『邪悪な』とか『不吉を予兆する』
という意味の形容詞らしいが、ありきたりな感じを
受けるので、今回の『フッテージ』(撮影済みフィルム)
という邦題はけっこう良いと思っている。
え、『8mm』? それ、もうニコケイが取っちゃってますよ。
物語のキモである部分を日本版予告編でほぼ登場
させなかった点も宣伝としては巧い。超常ホラーなのか
猟奇ホラーなのか途中まで読みづらいしね。
(本国のTVCMはバリバリ分かっちゃう内容でガッデム!)
さて、ここまで誉め倒してきたが不満点もある。
物語の整合性についてだが、最後の展開につながる
一連のルールに明確な理由が無いように思える。
なんつうか、やり口が回りくどいよねえ(笑)。
黒幕さんはそういうのが好きなんだろうとなんとなく
納得はしているが、その辺りのニュアンスとか
細かい部分の伝え方が甘いかな。
あとは観賞後も後を引くような粘り気のある恐怖という点も不足。
とはいえ個人的に大きな不満点はそれくらい。
存分に怖がらせていただきました。大満足の4.0判定!
〈2013.06.01鑑賞〉