劇場公開日 2013年4月6日

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桜、ふたたびの加奈子 : インタビュー

2013年4月5日更新
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広末涼子、子を亡くした母親役で見せた新境地

事故で亡くしたひとり娘の生まれ変わりを信じる母親、悲しみに暮れる妻に寄り添う夫。広末涼子稲垣吾郎が夫婦を演じる本作は、子どもの死という重いテーマを扱いながらも、一途な子どもへの愛情と、“美しい奇跡”を描いた感動作だ。悲痛なまでの母性愛を、全身から振り絞るように熱演した広末の姿に、誰しも心を揺さぶられることだろう。(取材・文/編集部、写真/本城典子)

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“いのちの循環”をテーマにした新津きよみの同名小説を原作に、モスクワ映画祭受賞作「飯と乙女」が高く評価されている栗村実監督がメガホンをとった。交通事故で入学式前に娘の加奈子を亡くした容子(広末)は、望まない妊娠をしてしまった女子高生の正美(福田麻由子)と出会う。そしてその子どもが加奈子の生まれ変わりであると信じ込む容子は、喪失を乗り越え前に進みたい夫(稲垣)、シングルマザーとして生きる決意をした正美、そして正美を支える教師の沙織らとかかわりの中で、衝撃の真実を知ることになる。

「シーンの冒頭から母親として一番大事なものを失って、ずっとその期間が続くので、撮影前から覚悟が必要だと思っていましたが、入ってからもつらかったですね」と当時の胸の内を明かす。容子が何度も口にする“生まれ変わり”という言葉に、若干オカルトめいた要素を想像してしまいがちだが、多くの犠牲者を出した3・11を受けて栗村監督は本作製作への思いを強くしたのだと、広末らキャストに早い段階から打ち明けたという。

「監督の思いを聞いて責任を感じました。悲しい話とか怖い話ということではなく、次の命への希望であったり、本当にあるかもしれない奇跡のような話として受け取ってもらいたいという思いで演じました」と役柄への思いを語る。物語の山場となる後半、容子のわが子への思いが堰(せき)を切ったように溢れ出すシーンでは、広末自身も想像できなかったほどの感情を爆発させている。「できあがった映像をみて、今まであんな顔で泣いたことあるかな? というほどでした。お芝居で顔を崩しすぎると注意されることもあるので、自分の中である程度ストッパーはあるのですが、今回は初めてそこを超えた表情をしていたと思います」

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稲垣演じる夫については「すごく理想的で、この旦那さんじゃなければ容子は立ち直れなかったのではないでしょうか。今まで見たことのない稲垣さんだったと思う」と絶賛。そして、乳幼児も含めた子役が多い現場は予定通りに撮影が進まないこともしばしばだったそうだが「とにかくかわいくて、その純粋さを一身に受けていました。こんなに遅くなって、もう眠くなっちゃうだろうな、疲れているだろうなというかわいそうと思う気持ちと、女優としてお芝居を一緒にしなくてはという気持ちの葛藤があるほどでした」と、振り返る。

30代を迎えてから演じる役柄の幅が広がり、女優としての新たなステップを実感しているという。「10代の頃のまっすぐ役に向かっていればよかっただけではない、何か過去があったり、何かに立ち向かったり、これまでの経験として表現しなければならいないことが増えてきたと、いただく役を通して実感しています。だからこそ、演じることへの責任を感じる上で意義のあることだと思いますし、大きなメッセージを伝えられる立場に立たせていただいていることが、ありがたいと同時にやりがいにも変わっています。やっぱり自分は女優という仕事が好きだなと改めて感じています」と笑顔を見せた。

女優広末涼子の底力をまざまざと見せつけられる本作、劇中を彩るはかなく美しい桜の映像とともに、日本人にもなじみの深い輪廻転生という死生観に思いをめぐらせたくなる一作だ。

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