劇場公開日 2013年1月26日

「ドラマ性のある異色のドキュメンタリー」塀の中のジュリアス・シーザー マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ドラマ性のある異色のドキュメンタリー

2013年2月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

舞台上でシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」のクライマックスが演じられている。そして終演。スタンディング・オベイションを受けて俳優たちが引き上げていく。向かう先は刑務所の重警備棟、各自の監房だ。
実は演じていたのは全員が囚人だったという、映像的にはセンセーショナルな場面なのだが、そのことは映画の広報で告知されているから驚きはない。このことを知らせずに観客を呼ぶことができたなら、どんなによかっただろうと思う。

場面は半年前のオーディションに遡る。そして画面からは色彩が取り除かれモノクロになる。
同じ内容の言葉を2通りの喋り方でさせるオーディションは、皆、真剣で、とても素人とは思えない。
その後のキャスティングの発表も、役と風貌がぴったりで、まるでハリウッドから集めてきたような顔ぶれで驚く。

タイトルのまま塀の中、いたるところを使って練習に明け暮れる日々をカメラが追う。深く深く役にのめり込んでいく様を見ていると、どこまでが現実なのか、その境目を見失いそうになる。迫真の演技というよりも、まさに刑務所がローマ帝国と化し、謀略と裏切りの淀んだ空気を纏っていく。
稽古を見ているだけで「ジュリアス・シーザー」の世界を堪能できると言ってしまうのは簡単だが、囚人たちの表情からは鬼気迫るものを感じる。

冒頭の舞台の場面に戻り色彩を取り戻した囚人たち。演じ終え両手を挙げてガッツポーズする姿は、やり遂げた達成感よりもローマ帝国の呪縛から解き放たれた開放感を強く感じる。
ただ、監房に戻されたときは、集中するものを奪われて寂しそうだ。

マスター@だんだん