「究極のネタバレ 多元的宇宙論で物申す」刺さった男 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
究極のネタバレ 多元的宇宙論で物申す
この映画、見るか見ないかでずっと迷っていたんですが、今まで見るのをためらっていたのは、ひとつレビューの評価が芳しくないのもあったんですよね。
で、結論から言うと「見てよかったな…」という感想です。
なぜならここに、ある男の人生が色濃く投影されていて、それこそがまさに映画だからです。
いろんなことを考えました。
・日本ではまずこんなことはあり得ない
・仕事がないって、大なり小なり惨めなもんだよな
・いったい、何を期待してこの映画を見る気になったのか
・何に満足したのか
・そして、何にがっかりさせられたのか
余計なものをバッサリ切り落して、救出劇だけを中継した映像に特化すれば、この映画の行きつく先には二つの結論しかありえません。「助かる」か「助からない」この二つです。
さらに言えば、そののちに、男が「幸せになった」か「幸せにならなかった」この二つ。
つまり、最大四通りの組み合わせで、映画は進んでいく可能性があるわけで、観客の関心はどこに落ち着くのかということです。
広告業界で働く男が、偶然にも自分の生死のかかった事故を「売ろう」として、様々な立場の人間が介入して事態は複雑にもつれていきます。
そこに生まれるドラマを、映画は残酷に、そして美しく描き出していきます。美を追求したはずのブーツが発する滑稽な音。責任逃れのことで頭がいっぱいの市長。歴史的な価値を損ないたくない一心の博物館の館長。警備の仕事そっちのけで動画をとることに夢中な野次馬。ヘリコプターから空撮され、サーチライトに照らし出された男はまるでキリストの磔のように両手を広げる。
そして、男と家族が下す決断は、つきつめると「誰を信用するか?」ということで、ここに見る人の共感を誘う映画ならではの演出があるのです。
「面白いか」「面白くない」かでくくるなら、面白くはないです。でも、確実に何かを考えさせられる、登場人物の誰かに自分を投影させて共感できるように、巧妙に演出された、そんな映画です。