劇場公開日 2013年5月25日

くちづけ : インタビュー

2013年5月20日更新
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貫地谷しほり&竹中直人「くちづけ」で紡いだ究極の親子愛

30歳以上の年の差があっても全く距離を感じさせない2人の関係は、やはり「親子」と表現するのがふさわしい。約2週間におよんだ撮影期間について、貫地谷しほりが「生まれて初めてっていうくらい悩んだし、つらかった。早く帰りたかった」と語る一方で、竹中直人は「とにかく集中できたし、しほりちゃんと一緒で堤(幸彦)監督の現場、とにかく楽しかった」と笑顔を見せる。正反対の感想を口にしつつも、2人は完成した作品、ともに過ごした現場での日々に対し同じいとおしさを感じている。映画「くちづけ」で、深い愛情で結ばれた父娘を演じた貫地谷と竹中が、つらくも楽しい撮影の日々を振り返った。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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元人気漫画家の父・愛情いっぽん(竹中)とともに、知的障害者たちが協力して暮らすグループホームに身を寄せた娘のマコ(貫地谷)。7歳の心を持ったまま大人になった無垢(むく)なマコは、なぜ死ななくてはならなかったのか。知的障害者を取り巻く現状とともに、父と娘の悲しい物語と深い愛が綴られる。

「竹中さんと親子役やるのは(映画『僕らのワンダフルデイズ』に続いて)2度目なんです」。そう語る貫地谷の口調は、竹中への信頼に満ちている。映画の中で描かれるのは、2人がグループホームで暮らしたわずかな間のことだけだが、そこに至るまでの長い年月で父と娘が積み重ねてきた愛情がしっかりと伝わってくる。「最初に撮ったのは、私が竹中さんのひざの上に頭を乗せて、おでこをグリグリっとするシーン。それだけで本当にラブラブな親子だったんだなって感じました」。

役柄や関係性について、2人で話し合うこともほとんどなかった。「自然と親子になっちゃったよね」と竹中は言う。「しほりちゃんが『いっぽん!』と呼びかける声を聞くと『ああ、マコがいる』と感じた」。そう語る表情は、何とも嬉しそうだ。2人にとって何より大きかったのは、堤監督の存在。貫地谷にとっては、「H2~君といた日々」で初めて連続ドラマでレギュラー出演をオーディションで勝ちとったのを皮切りに、「節目となるところでいつもチャンスをくださる特別な存在」。本作が映画初主演というのは意外な気もするが、堤がメガホンをとるということには運命すら感じさせる。

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竹中も堤組で大小さまざまな役を演じてきたが「今回はいつもの堤さんとはまた違った挑戦で、これまでにない堤さんの顔を見た気がします」と振り返る。演劇のワンシーンを切り取ったようなオープンセットを組み、5台のカメラで俳優を追いかけるという手法も堤組ならでは。「堤さんのエネルギーに動かされた部分がいっぱいあったし、映画を見て、監督が本当にこの作品を心から愛しているということを感じた。『見ましたよ!』とまず監督に伝えたいなって思いました」と熱い思いを口にする。

「これまで悩んだことがなかった」という貫地谷を苦しめたのは、知的障害者を“演じる”ということの重み。自分なりの答えを見つけようと、実際にグループホームにも足を運んだが、そこで見た光景がさらに悩ませる結果となる。「方向性がつかめるんじゃないか? そう思っていたんですが、当たり前だけど本当にみなさん個性がバラバラなんです。さらに選択肢が広がっちゃいました(苦笑)。職員の方に『こうしたテーマを扱った過去の作品を見てどういう感想をお持ちですか?』と聞いたんですが、『現実と違います』というすごく厳しい答えが返ってきたんです。だから私はとにかく、知的障害者の方やその家族、かかわっていらっしゃる人たちにウソをつかない芝居をしたいという思いでした。最初のワンシーンを撮る直前まで悩み続けていたし、いまでも自分の中で答えは出せていません」

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一方、竹中は悩まない。なぜか。「役や演技に答えはないと思っているし、いままでの作品で役を理解 したこともない。『本番!』って言われたら集中するだけ」というのが竹中のスタイルだから。驚くべきことに、ほとんど台本を読むこともなく、最低限の自らのセリフや相手の反応以外、物語の流れさえもほぼ頭に入れずに本番に臨むという。「ビジョンができてしまうのが嫌なんです。ここに行き着くまでのお話なんだと分かって演じたくない。何も知らないままやりたいから、本番ギリギリまでほとんど情報を入れないんです。今回の物語の結末も『そうだったのか!』という感じで驚きでした」。

父と娘が紡ぎ出すクライマックスシーン。竹中が驚きと緊張感を味わいつつ、楽しみながらこのシーンに参加する一方で、もう一人の当事者である貫地谷は、これまでにない感情に揺さぶられながら、なかばパニックに陥っていた。

「予想もしていなかったところからの芝居でたまげましたね。マコを演じつつ、私の中にはいっぽんの目線もあって、そっちの感情に引きずられそうになるんです。しかも撮影は1回では撮りきれないから、ずっと集中力を高めたままにしておかないといけなくて……。ただ見つめ合うだけで感情が込み上げてきて、もうあふれ出しそうになる手前なんだけど、マコとしてはあふれさせちゃいけない。あのときの緊張感と集中力はすごかったですよ。カットがかかるたびに号泣して、もう一度感情を抑えてメイクを作り直して、またいっぽんに向き合う――。とにかく言葉で表せないくらいの感覚でした(笑)」。

まさに生の感情がぶつかり合うことで生まれたクライマックス。舞台に引けを取らない熱量と父と娘の深い愛情を、スクリーンを通じて感じてほしい。

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