「映画では尺が足りなかった感」真夏の方程式 真中合歓さんの映画レビュー(感想・評価)
映画では尺が足りなかった感
容疑者Xの献身に続いて鑑賞。こっちは確実に初見だったので真っ更な状態で楽しめました。
もうこの三作目(僕個人が沈黙のパレードから数えて)を観て気づいちゃったのですが、ガリレオ映画って種明かしとかそっちはオマケで、そんな事に至ってしまった人達の生々しいストーリーがメインなんですよね。だから単純にタネだけにスポットライトを当ててしまうと、「旅館の人達猟奇的過ぎだろ笑」なんて感想になってしまう。
なので、本作はどういう話なのかと言うと、”恭平と湯川の成長物語”なのだ。子供嫌いだった湯川が恭平と触れ合い、ある意味難解な問題よりも難解とも言える子供に分かりやすく教えるという過程を通して、新たなる喜びを得たのではないだろうか?これがゆくゆくは沈黙のパレードのあのシーンにも繋がっているのだと思うとニヤつかされます。
タイトルや湯川と子供という組み合わせからどこか夏休みのひととき、のような雰囲気も醸し出していますが、それに負けじとシンプルに何か大冒険をしたような後味を楽しめるのもまた本作の良さです。子供が見るのと大人が見るのとでは感想が変わりそうですね。
さてさて、そんな感じで三作目にして私もようやくガリレオ映画の方程式に気づけたわけなのですが、まあそれは置いとくとして、シンプルに感想を述べるとなると、やはり今作も普通だった。。。。んん~やっぱりドラマの映画版ですからドラマを観た上での上澄みが無いと100%楽しめないんですかね。
まずストーリーなんですが、昔東京で住んでいた家族がとあるホステスの殺害事件をキッカケに田舎の港町まで引っ越して、それから十数年の時が経った頃、その時に捜査をしていた刑事が訪ねてきて殺しちゃったという具合です。
で、どうしても納得が行かないのが杏のクソ野郎です。コイツがホステスを殺しちゃったせいで田舎に引っ越す羽目になりしかも種違いだしで色々メチャクチャになってるのに、湯川が『恭平をミマモッテテクレ』なんて言い残して恐らくお咎め無し。本作は劇場三作の中でも唯一真実が伏せられたまま終わります。
環境問題海を守るぅ!とか言ってた女が実は人を殺害していたというのは驚きの要素としては満点なんですが、実はそれも大昔の話で今回旅館で殺された刑事さんは親父さんが殺してるんですよね。因みに意外と奥さんは加担しただけ。なので旅館の事件では杏は蚊帳の外なんです。でも、大元を辿っていくと東京に居た頃にホステスを殺していたのは杏で、更に杏は今一緒に住んでいる父親の子では無く表向きに捕まっていた犯人の子供だった。
とまあ文章にしても分かる通り、明らかに二時間で収まる内容じゃないんですよね(笑)。最低限前後編で東京編と玻璃ヶ浦編が必要なくらいのボリュームです。そもそも東京編だけで全然行けますねこれは。
一方で、謎や事件だけに焦点を当てるからそんな見方になっちゃうんですが、本作の肝は湯川と恭平の関わり合いです。謎を解き明かす際にも同行しますし、なにより今回の旅館事件は事実上恭平の手によって刑事さんが殺害されています。
すると面白い構図が見えてきて、十数年前にホステスを殺しちゃってそれを隠蔽して玻璃ヶ浦に逃げてきた杏と、東京からやってきてそこで新たな殺人に加担してしまい、最後にその真実に気づいてしまった恭平。
本作で本当の殺人者たちは二人共自由の身で、代わりに別の人間が罪を被っているのです。旅館事件においてはそもそも恭平に手伝わせてる時点でクズ過ぎるんですが、旅館の夫婦は二人共身体が悪そうでしたので恭平に頼ってしまったのも仕方ないのかもしれません。
子供の犯してしまった罪。それを隠して玻璃ヶ浦に逃げてきたが、再びそれを向き合うのを拒絶した家族は、刑事を殺してしまった。そして、その罪の上塗りの”ツケ”を恭平が払ってしまったという事なのでしょうね。
しかし、そうなると尚更旅館事件では蚊帳の外で無神経にシュノーケリングしてる杏に殺意が湧いてしまう(笑)。そもそもホステスを殺すような狂気の女には見えませんし、全くもって田舎の純粋そうな女性という感じでした。もうちょっと、ミスリードのような形で杏の狂気を見せるべきだったかも。
でもこれもまあ十数年の時が経っているのですから風化して当然ですし、そもそも杏がちょっと変な奴だったら全くジャンルが変わってしまうか。んん~だからこそ二時間では足りないんだよなあ明らかに。
長々とここまで述べてきましたが、アレもコレも正直二時間映画の尺には足りなかった感が否めません。物語の構造としては東京時代から続く親子の逃避行ですごいポテンシャルを秘めてるんですが、まあ半分は湯川を楽しむ映画なんでこれが娯楽映画としての満点なんですかね。
あと、吉高由里子が絵に描いたような『湯川せんせぇ~』みたいな演技させられててちょっと可哀想だったな。もうちょっと役に立ってるところを見たかった。