「従順な小市民」ハンナ・アーレント xtc4241さんの映画レビュー(感想・評価)
従順な小市民
「命令に従順な小役人でしかなかった」
アウシュビッツでユダヤ人を大量虐殺したナチスドイツの高官アイヒマンについて、ハンナ・アーレントはこう評した。それに対して平凡な奴に同胞は殺されたというのか。そんなはずはない、悪魔に殺されたのだ。イスラエルの人たちは叫んだ。
その気持ちはわかる。ハンナ自身、一歩間違えればガス棟に入れられたかわからないのだから。でも、アイヒマンは人間性を失っていた、いや、失うようにしていた。人間として考えないようにしていたのだ。
遠くから聴こえてくる、神なる言葉、善なる言葉を聴かないように耳をふさいでいたのだ。他の人ならその言葉を聴くことができたのか?
いや、閉ざされた空間、限られた世界のなかでは、誰も目の前のことだけしか見なくなる。そう、戦争に送られた人は、ただ自分の前にいる敵しか見えない。それを単なる物体として撃ち殺すしかなくなるのだ。
いまの日本の官僚についても同じことが言えるのではないか。
官僚は組織に従順だ。自分の省庁、先輩たちの継続を大切にする。そうすることが自分の出世に直結するとすれば、その世界に逆らうということの方がむずかしいと言えるだろう。
でも、このことは僕たちにも言えることだ。原発はイヤだと思っても、いまは景気のほうが大切だ。特定秘密法案、情報は大事かもしれないが、今日のお金の方がもっと大切だと感じてしまう僕たちがいる。
でも、遠い言葉、善なる言葉はなんといっているか、聴くことも重要なことだ。
秘密法案が最悪なのは、僕らに考える材料を奪ってしまう可能性が高いということなのだ。国家によって個人の考える自由が奪われてしまう。
そんなバカなことと思っていても、いつの日か、戦争に巻き込まれてしまう可能性をもっている。そんな再現があるかもしれないのだ。
ハンナ・アーレントは悪というものをとことん考えた。
悪とは自分自身のなかにある。善も自分自身のなかにいる。それはくりかえしやってくるものなのだ。だから、そんな悪の状況に陥らないように、常に考えなければならないと教えてくれる映画だったと思う